第16話 交換日記

 香織は、星野からのメールを見て、がっかりしていた。また、華子と友達としてやり直せることになった、という内容のそれは、星野がまだ、華子のことを愛しているということを如実に感じさせられる内容で、香織は深く細いため息をもらした。

 よかったじゃない、と打ち送信をタップすると、携帯を置き、窓を開ける。綺麗な空だった。寒々しいくらいに清潔で青い空を見ると、無性に何かしたくなった。

 まわりを見渡すと、ふと、半分開いたクローゼットに覗く小さな本棚が目にはいった。クローゼットを開けて、それに手を伸ばし、一冊のノートを手に取った。

 日焼けしたそのノートをパラパラとめくる。「交換日記」とかかれたそれは、小さな鉛筆でかかれた文字に埋め尽くされていた。「華子より」という文字を見て、香織は少しさみしい気持ちになった。

 今の華子はこんな字を書かない。

 学生のころは、すべてだったであろう、日記の内容は、読み返してみるとひどくくだらなくて小さなことばかりで、香織は笑ってしまう。

 もう、二人だけで生きられるほど、世界は狭くないのだ。

 香織にとって、星野も華子も一つの関係の輪にすぎないのだ。彼らから少し離れたところに、彼らが知らない関係の輪を持っている。また、彼らも、香織の知らない関係の輪をたくさん持っているだろう。

 そう思うと、なんだかどうでもよくなってしまう。香織は、声を出して笑ってみる。

ふふふ、はははは、声は部屋に吸い込まれるようにして消えていった。


少し寒い、日曜日の午後であった。

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