ピタゴラスもこういう恋愛をしていたのだろうか

拓魚-たくうお-

ピタゴラスもこういう恋愛をしていたのだろうか

 「大丈夫よ、相手は女だから。」

 「本当に? …なら良いけど。」

 「心配しないで。すぐ帰ってくるわ。」

 「…わかった。行ってらっしゃい。」


 彼氏との電話を終え、スマホを利き手側のポケットに仕舞う。

 今日は人と会う約束をしている。待ち合わせはここ、この辺りでは一番大きな駅。

 少し歩けば映画館やカラオケ。反対側に行けばラブホテル等のある歓楽街。

 私の、いや、私と待ち合わせ相手の目的地は、映画館ではなく、歓楽街の方だ。


 そう、私は今から、俗に言う『浮気』をする。

 さっきの電話は嘘だったのかと問われれば、答えはノー。

 あの電話では何一つ嘘はついていない。


 だって、私が会うのは女だし、日付が変わる前には家に帰るつもりだから。


 「あ、いたいた。チサトー!」


 チサト、これは私の名前。

 そして、声の主は私の待ち合わせ相手。


 「久しぶり、ハル。」


 ハル。

 私の待ち合わせ相手であり、私のもう一人の、恋人。


 私の浮気が彼氏にバレない理由。

 それは、彼氏が同性愛への理解を持っていないから。

 どうにかアリバイを作ったり、コソコソと隠れたりしなくていい。

 女と会う。それだけで彼は、簡単に首を縦に振ってくれる。


 彼は良くも悪くも一般的な人間だ。

 もし彼がインドのヴァイシャなら、きっとシュードラの人々を差別する。

 もし彼が江戸の町人や百姓なら、きっと自分より身分の低い人々とは関わらない。

 そんな風に、まだ同性愛の浸透していない日本に暮らす彼は、それを認めない。

 良く言えば一般的。悪く言えば差別的な人だ。

 それでも私が彼と暮らすのは、まだ彼に対する愛を捨てきれていないからだろう。


 だからこそ私は、彼への愛とは違う『愛』を、このハルと共有する。


 「ショウくんには連絡したの?」

 「したよ。もちろん、『ハルと会う』とは言ってないけど。」

 「そう。」


 『ハルと会う』とは言ってない。

 それは浮気がバレないためだとか、彼が私とハルの関係を知っているだとか、もちろんそんな理由ではない。

 ショウという男が、私の彼氏であると同時に、ハルの元彼氏だからだ。


 これが所謂、三角関係というものなのだろうか。


 私はスマホを持っていた方の手で彼女の左手を取り、言った。



















 「いこうか。」

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