通学路の秘密④

 帰り道。

 いつもと変わらない景色の中を歩いていく。こうして一人で帰るのは久しぶりのことだった。新一と一緒に帰る日々が続いていたからかもしれない。実際に一人になると、少しだけ寂しさを感じた。

 俺はこんなにも人恋しく思う人間だっただろうか。

 中学生の頃はいつも一人で帰っていた。孤独には慣れているつもりだった。

 とにかく一人になることにこだわって、周囲の人達との仲を自ら断ち切ったほどだ。そんなひねくれた性格をしていた俺が変わったのは、高校生になってから。

 特に新一と仲良くなってからは一人だった帰り道がにぎやかになった。

 最初の頃は新一がうっとうしかった。はっきり言って迷惑だった。

 ずっと一人でいることにこだわっていた自分の世界。

 そこに土足で踏み込んでくる奴を必死に排除しようと思っていた。

 だけど、新一はぶれなかった。何回も俺に声をかけてきた。

 そんな新一の真っ直ぐな気持ちに打たれたんだと思う。

 俺は新一と一緒に帰り始めた。二年生になっても新一とは一緒に帰っていた。

 でも、変わらない俺とは違って新一の周りの環境が変化した。

 新一は生徒会長になった。

 当然、生徒会の仕事がふりかかってくる新一に暇な時間はなくなった。

 今までみたいに、二人で帰ることもなくなると思っていた。

 だけどそんな時に新聞部が掲載する氷山通信のコラム、未来予報という大きな問題に出会った。

 生徒会の危機だと言って、新一は俺に相談事を持ちかけてきた。

 それ以降、二人で帰ることが極端に増えた。

 何だかんだ言って、結局俺は今でも新一と一緒に帰っている。

 河川敷に一陣の風が吹きぬけた。

 思わず手で風を遮る。目の前には茜色の空が広がっていた。

 こうして今の自分と中学生の頃の自分を比べると、正反対の人付き合いをしていると思う。

 でも、それは嫌なことではなかった。

 むしろ、新一と出会えたことにより俺の世界は大きく変わった。

 これで良かったと思っている。ただ、どこかで一人になる時間を作らないといけないとも思っていた。

 高校生の時にしか手に入らない、大切な秘密を見つけなければいけなかったから。どうしても新一と一緒にいるときだと、深く考えることができなかった。

 それに、秘密は一人のときにこそ見つかると思っていたから。

 じいちゃんは通学路で何をみつけたのだろう。

 こうして一人で帰ってみても何一つ感じることがない。

 いつもの風景が当たり前のように過ぎていくだけ。

 何の変化もない通学路に、当時のじいちゃんは何を感じ、何を思ったのだろう。

 どうして俺にあの言葉を残したんだろう。

 じいちゃんが通った学校の通学路じゃないといけないのかもしれない。

 そうだとしたら、俺が見つけるのは不可能に近いことだ。

 だけど、じいちゃんが不可能なことを俺に残すとは思えなかった。

 必ず通学路には秘密がある。

 誰にも知られることのない秘密が。

 この代わり映えのない日常を変える何かがあるのかもしれない。

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