11.ファン!?

「今日も練習お疲れ様っ!

 おにぎり作ってきたよ♪」

 あれから自分たちに足りないものを自分たちなりに考え、意見交換もしあった。みんな仲良いからか、悪いことはあまり言えなかったような雰囲気だったけど、この日だけはハッキリと言ってやった。

 花城くんは完璧なようで、バテると顔つきが怖くなる。沙月くんは体力がない代わりに、歌唱力が上がってきた。夢園くんは失敗をよくしちゃっても、笑顔でいることは忘れない。

 プロ以上にうまくならなきゃ、会長をギャフンと言わせられない。妥協しないのがプロ、でもアマチュアだってプロを超えられる。だから、ホルプリにあるものをどんどん取り入れる。

 そして、わたしは今まで三人にダンスの指導をしたけど、あげられるものはほかにもある。それが、このおにぎり……じゃなくって。

 ほかのライブDVDを見たら、もっとたくさんのことに気付けるかもしれない。なので、自宅でおにぎりを作ってる間の作業用BGMとして、自分の持ってる今までのライブDVDを流した。うん、やっぱりユキくんはカッコいい。先日会ったユキくんは本物だった。夢じゃないって、机に飾ってるサイン色紙が教えてくれてる。


『みんなーっ応援ありがとー!』

『大好きだー!』

『みなさんのおかげで、僕たちもがんばれます!』


 はあ、やっぱり映像の3人もかっこいい。

 アイドルは応援の気持ちで強くなるんだ。ファンがいるから、輝く力が強くなるんだ。力がわたしたちへと送られて、わたしたちも反響するように送り返す。力が強ければ強いほど、会場はもっとわき上がる。カリスマ性っていうのは、その力の強さを指す……のかもしれない。

 わたしに足りなかったのは、3人への応援の気持ちだった。ただ単に教えても応援にはならない。三人に負けないくらいに、三人にガチにならなきゃいけないんだ!


「4人分にしては多すぎじゃないか?」

「やだなあ、3人分だよ!」

「いっただっきまーす! うめー!!」

「えっと、これ、具は何が入ってるの?」

「あはは、うちにある余りものばかりだよ? シャケに、ツナマヨに、梅……」

「……太陽。これを食ってくれ」

「あれ、光輝梅ダメだったっけ?」

「あまりいい思いはしないな」

「もしかして、梅原く……ヒッ」

 沙月くんがNGワードをしゃべってしまった、と口をおさえた。は、花城くん、そんなに怖い顔しなくてもいいじゃん!

「もう、なんでそんなにあの人のこと嫌いなの!?」

 そりゃウザいのはわかるけど!

「アイツはとにかく俺につっかかってくる。自分が俺より上だと誇示してばかりで迷惑だ」

 本当はかまってほしかったんじゃない? あの人、友達いなさそうだし。一緒にいた一年生は、どっちかっていうとファン……いや、信者みたいだし。

 沙月くんに、こんなにたくさんは食べられないからとわたしにおにぎりを勧めた。あはは、気合い入れすぎちゃったかな。

 うん、手前味噌になるけど美味しい。わたしったらおにぎり握る才能あるかも!

「よーしっ、お昼休憩終わったら笑顔で腕立て伏せ100回3セットよー!」

「ええっ3セット!?」

「余裕よゆー!!」

 そして笑顔をキープする力は! こうして鍛えるものだってホルプリが教えてくれたの!


 ……ん? な、なんか背後から視線を感じるような……ここ、第二音楽室だけど、他に使う人いたっけ……?

 怖くなって、ちらり、とドアへと目を向ける。視線に気付いた人はすぐさまドアを閉めた。

「ん、ふぁれかいう(誰かいる)の?」

 おにぎりを口に含めたまま尋ねる夢園くん。気にしなくてもいいんだろうけど……ハッ、もしかして偵察!? よくあるじゃない、敵の練習風景をこっそり観察するの!

 そ、そんなのあったら困る! 3人に、すぐ戻るとだけ伝えて教室を出る。……バタバタ、と足音が聞こえたと同時に、駆け足でその人を追った。

 あれ……? 偵察なら、会長かファンの人かと思ったけど、女子……? ポニテに、小麦色に焼けた肌の子が、わたしから逃げるように廊下を走っていた。

「まって!」

 たしかあの子は……そうだ、プロデュースを始めたときに「花城くんにヘンに近付いたら許さないから」って釘を刺してきた、花城くんファンの人!

 運動部に所属してるからか、背中には中学校と苗字が書かれているゼッケンが貼られていた。竹内たけうちさん、って言うんだ。

「花城くんのことが気になるの!?」

 あっ、スピードが下がった。よーし、やっとつかまった……! はあ、はあ、階段、すっごく速く降りたときはもう捕まえられないかと思ったよ。

 竹内さんは、わたしと比べて浅くしか息をしていないけど、その代わりにわたしのことを少々にらみつけていた。って、代わりにならないけどっ!

「ホントに、アタシらの花城くんに不用意に近付いてないのね、って思っただけよ」

「だからそんなつもりじゃ!」

「はいはい、ちゃんと知ってるってば。

 夢園たちとアイドルになるんだって、言っとくけどアタシは同担拒否だよ」

 で、出た、同担拒否! 同じ推しメンの人と関わりたくない、キライって人!

 わたしはそんなことないけど、同担拒否の人って、それほど推しメンが好きなのかな。誰にも奪われたくないって、思ってるの?

 ファンって、いろんなタイプの人がいるなあ。もしこの人もドルオタだったら、仲良くできたかな。

「練習してるトコ、見たかったの?」

「……まあ、あの教室で踊ってるの見えたから……

 その、練習、うまくいってるワケ?」

「一応、ね」

 そっか、やっぱり花城くんが気になってたんだ。

 ……そうだ、応援がアイドルの一番の力の源なら、ファンは多いほうがいいよね。ホントは話しかけるのに勇気いるけど……!

「さ、サインとかもらったらどう? なんて、アイドルっぽいと思ったんだけど」

「いいの!? 超アイドルっぽいじゃん!」

 わっ、竹内さんいきなりテンション上がった! やっぱり、好きな人からのサインってもらうと嬉しいよね。

 なんて、軽はずみに言っちゃったけど、花城くんOKしてくれるかな……友達以外の人と関わるのイヤそうだけど。


 聞いてみた結果、竹内さんの名前を出した途端にイヤそうな顔をしてそっぽ向き、「断る」と申し出た。わーん、そんなあっさりー!

「光輝、そーいうの『塩対応』って言うんだぜ」

 夢園くんが、めずらしく花城くんを叱った。その言葉に、『アイドルはファンに優しくしなくちゃいけない』という、アイドルを理解してるようなニュアンスを含めていた。

「アイツはどうも好かん」

「そーいう問題じゃねーけど……」

 塩対応のアイドルもいるけど、そんな人は、当たり前だけどネットで悪く言われることがほとんど。花城くんは、決して手を抜いてそんな態度を取ってるわけじゃないんだけど、どうやら心を許した人以外、馴れ合いたくないみたいだった。

 でも、夢園くんのアイドル像は、うまく言えないけどそうでは許さないと言いたいのはわかる。ううん、わたしも。

「花城くん、今のあなたはアイドルなんだよ」

 プロを超えるなら、自分たちもプロだって意識しなきゃ。常にファン目線でいることがプロのアイドルだよ。

 同じ目線にいるファンに、『神様みたい』と思われるようになって、一人前のアイドルなんだよ。

 歌とダンス、パフォーマンスが完璧でも、意識も完璧じゃなきゃ、アイドルなんて呼べない。

「……今のお前、プロデューサーみたいだな」

「へっ?」

 わたしを一目見て、ぽつりとつぶやいた。

 この前まで、ユキくんに向いてないなんて言われたけど……なんで、いきなり?

「プロデューサーというのは、現代の芸能界の役割で言えば、アイドルの形を作る陶芸家のようなものだ。ひねり次第で美しい形にも、いびつな形にも仕上げられる。

 お前は、いま俺を美しくしようとしているところだ」

 これまためずらしく、あまり笑うことのない花城くんがフッと微笑んでは、わたしに手を伸ばして手のひらを見せた。

「色紙、持ってるんだろ」

 今の花城くん、すっごく、アイドルっぽい。

 ……竹内さん、こんな彼を見たら卒倒するかも。

「映画部、今度は何を作るんだろうね」

 沙月くんが楽しげに夢園くんに聞いてみる。さあ? と返されるけど、わたしには、どうしていきなり映画部の話が出てくるのかわからなかった。沙月くん、何気に人脈広いから友達に映画部の人がいるのかな。

 うちの学校って公立のクセにヘンな部活あるよね。映画部って、30分程度のドラマを、企画から撮影、演技まで部員全員でやるんだって! クラスの頭いい子もそこの部員だったな。きっと将来名女優になれそう。

「竹内、テニスウェア着てたし次はテニスの映画やるんじゃねーの? 初心者が上手くバシバシ打てんのかなー」

「竹内さんテニス部じゃないの!?」

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