私の好きな恋の在り方

不破 雷堂

恋をするといふこと

 自慢ではないが、私はそこそこ整った顔をして生んでもらえた。かわいい系ではなく、綺麗系の方向。

 

 目はメイクで大きくしなくてもそこそこの大きさがあるし、子供の頃から鼻呼吸で過ごすように教育されたおかげだろうかEラインも作れた。鼻筋はスッキリと通り、口との距離も近い。輪郭は細く、顔も小さいっちゃあ小さいだろう。肌の手入れもしっかりとしてきたし、歯の矯正も両親に高い金かけてもらってバッチリ。


 いつも笑顔を絶やさないように心がけるようにして、中学高校と学校で一番の美人とはいかなくても、少なくとも月に数度は学年を問わず男子から告白されることも多々あった。


 しかし、付き合ったことは一度もない。


 よく、嫌われている女子からは理想が高いだの高慢だの高飛車だの性格面で無茶苦茶を言われ、よく知らない奴からはエンコーしているとか他で男作ってるとかヤリマン隠すのに学校で付き合えないとか陰口言われたし、嫌な気分はそれこそ嫌というほど味わった。


 でもレズだという噂に乗っかって告白されたのが一番驚いた。


 そんな中学高校生活を乗り切ることができたのはやはり小学生のころからの仲良し幼馴染カップルのおかげだろうか。


 彼らは二組、それも両方共が幼稚園の時からというよりは家が近所でその前からの知り合いらしく、それぞれがそれぞれ二人だけの世界というかお互いが分かり合える空間を作り出すのだ―私がいるまえだろうとお構いなしで。


 つまり、白状すれば私が恋人を作らない、というより告白してきた男子どもを振ったのは、単純に好みじゃなかったからなのだが、私は恋に恋をしているのだ。


 彼らの様に、お互いの好みを知り尽くし、本人がいないところだというのについつい相手のお土産買っちゃったり、今度ココ一緒にこようとかチェック入れたりしているのをみて、いいなーとか思っちゃうのだ。

 

 その点、私に告白してきた男どもはどうだろうか。


 いかに自分がカッコいいか自慢してくるナルシストや不良自慢をしてくるヤンキー崩れ、どれだけ私が美しいのか自作の詩と歌をプレゼントしてきたのもいればよく知りもしない―こっちからしたら初対面同然の人物がいきなり「好きです」と言ってきたのもあった。

 

 はっきり言って、私はそんなものを求めていない。


 私が求めているのは仲良くなって、楽しく過ごすことが出来て、ふとしたことで「あの人何やってんだろう?」とか「あ、あの人が好きそう!」とかそんな風に私の日常にゆっくりと入り込んできていつの間にやら思考を支配するような、そんな侵略者みたいな男なのだ。


 それをまあ、人の見た目やキャラクターだけでまるでトロフィーか何かと勘違いしたような男しか私には寄ってこないのだ。


 どいつもこいつも下心が見え透いていて気持ち悪くなるし、そもそも仲良くなるのにいきなり手を握ってくる奴とか死んでくれとしか言いようがないのでセクハラ呼ばわりして女子にチクったら周りが助けてくれてありがたかった。


 大学でもそんな風にまるでモノのように扱われているというのはなんかクルものがある。


 私は普通に、いや普通か?恋なんかしたことがないからよくわからないがとにかく普通に仲良くなって普通に流れで付き合いたいのだ。

 

 ああ、私はこのまま恋を知らずに生きていくのか、とかこのままいい年まで恋を出来ずに拗らせて、職場でお局と呼ばれるようになったり、若い子たちから「昔綺麗だったからって変にプライド高くってああなったんだ」って陰口たたかれるところまで想像してしまう日常に吐き気がしてくる。―もうだいぶ拗らせているという指摘は受け付けない。


 そうやって、自分自身で訳の分からない妄想に心を殴られて過ごす日々に、ある日、闖入者がやってきた。


 ソイツは、理学部物理学科の研究バカでなぜかウチの教授と仲が良いらしく課題を提出に来たら部屋で菓子を食べていた。


 ドアを開けて中に入ってきた私をちらっと一瞥するなり興味を無くした様にまた菓子に視線を移されてイラっとした。


 初対面なんだから会釈の一つや挨拶くらいはするのが常識だろうとは思うのだがもしかしたら教授の知り合いというか、あからさまに教授に要件あってきましたって感じだから声を掛けなかったんだろう、そうだろうと思ったら教授に紹介されても無口でだんまり。はあとしか言わないこいつに思わず自己紹介しろやこのヤロウ!とは言えずにやんわりと自己紹介を求めたてやっとこさ、こいつがどこの誰べえかを知ることができた。


 それからというもの、うちの学部が入った人文館の横の理学館にいるこいつの顔は何度か見る―というか気づくようになったというのに相も変わらずこいつは私には無関心で挨拶しても放置してくるから一発、人間関係の基礎、コミュニケーションの基本である挨拶についてこいつに叩き込まねばなるまいと決心するところまでいった。


 そこまでいって、思ったのだ。


『あれ、これって私が求めていた恋ってやつなのでは』


 否定は秒で、というかそれ以下で、刹那ぐらいで来たと思う。


 いやいやいやいや、これはそんなもんじゃないから、というか相手のことなんか何も知らないから。


 そもそも教授の部屋によく来ているのを見たり、その辺を歩いている位しか見ていないのだ知っていることと言えば名前と学年と学部、後は教授の部屋で主にクッキー系の焼き菓子を食べてることが多いがなぜか、渡り廊下にあるベンチではコンビニのスティック羊羹食べてるくらいしか知らない。羊羹が好きなんだろうか。


 あれ、これって好みを知っているにカウントされますか?


 どうすればいい、これが恋なのかそれともそうじゃないのか、私の中には情報が少なくて何とも判断が付かない。


 それもこれも何もしゃべろうとしないあいつが悪い。


 そこまで感がるとなんか腹が立ってきた。何であいつが悪いのに私が悩まなくてはならないんだ


 あいつには責任をとってとにかく話をせねば、いや話させねばならない。


 そうと決まれば、作戦を練らなければならない。共通の知人は教授しかいないからどうにかして巻き込まなければ…ああ、これは恋をするといふことではないので悪しからず


 

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私の好きな恋の在り方 不破 雷堂 @fuwafuwaraidou

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