第35話 マスカレード襲撃の爪痕
「まずい、影響が大きすぎる……」
ラバーサイユベル伯爵統治下の領、その
あの襲撃から4日。
一旦はこの《レズハムラーノ》にて保護されたパーティ生存者は、主催関係者、すなわちアルファリカ公爵、フィーンバッシュ侯爵を残し、皆、自領、己の街に既に帰っていった。
「あの襲撃、謎ばかりが残った」
いまアルファリカ公爵がいった通りだ。あの襲撃は謎だった。
アルファリカ公爵の言葉に、表情に、フィーンバッシュ侯爵も、ラバーサイユベル伯爵も瞳をギラリと光らせ視線を送った。
「詳細を詰めようにしても、襲撃者のただ一人として生存者は無し」
不可解なことだから頭に手をやったアルファリカ。そう、実は生存者はただ一人としていなかった。
領兵たちが会場内まで押し寄せたのは、外で交戦していた襲撃者全てを殲滅したからだった。
「救援部隊が会場内に入ってからは、襲撃者はお互いを刺し貫いたという。全員だぞ⁉」
「徹底が過ぎます。襲撃者たちの体つきにもバラツキがあった。襲撃者たちの殆どは農民、町民でしたがその中には……」
アルファリカ公爵の推察に、考えを重ねようとしたのがラバーサイユベル伯爵。
「問題は目的もそうですが先は現実を見るべきかと」
「現実?」
しかし言を挟んだフィーンバッシュ侯爵の考えに、
「ええ、残念ながら……この領の民が乱を起こしたという現実」
「な、フィーンバッシュ侯爵、貴殿は!」
「私も責めるつもりはない。が、この事実を見てしまうと、どうしても伯爵の責任追及は免れない」
一転ラバーサイユベル伯爵は声を荒げた。
「違う! 襲撃者の中には戦闘経験のある戦……」
反論を試みようとしたが、それはフィーンバッシュ侯爵がかざした掌に止められた。
「それに、その、なんというか……対、《タルデ海皇国》交渉側は、その《タルデ海皇国》を含めていろいろ不備が多すぎるのだ。あのパーティで貴殿が交渉しているパイプ役、ハッサン・ラチャニーなる者も当日のパーティに欠席。しかもその者は《ルアファ王国》交渉担当官、トリスクト伯爵代行と因縁があるというではないか。そのうえ、今回襲撃に見舞われたパーティ自体もそもそもがその男の発案だったと聞く。貴殿でなくそのハッサン・ラチャニーの算段だったにせよ、やはり我が国としてはその責は……」
「それはない……」
が、フィーンバッシュ侯爵は言を述べる途中で、アルファリア公爵が威厳たっぷりに否定をしたことで閉口した。
「ならばラチャニーは名代として黒衣の男を送ってこぬよ」
「あのパーティに黒衣の男が来たのは、当日の襲撃を中から先導する為でございましょう?」
「先導役でありながら、あそこまでその指令先である襲撃者たちを薙ぎ倒していったのだとしたら、大した裏切りっぷりだ」
「擁護なされるか閣下! そこは冗談を言うべきところではありませんぞ!?」
「冗談で言っているつもりはない。ワシが断言できるのはな、ラチャニーを誠疑っていないからだ。故に奴の名代に……エメロードの保護を託した。それとも
「それは……申し訳ございません。ラバーサイユベル伯爵、たったいまの発言、許されよ。」
ドンッ! と、拳で一つ机をアルファリカ公爵が叩いたから、フィーンバッシュ侯爵もラバーサイユベル伯爵も視線を集めた。
「各々がた気を引き締められよ。今こそ我ら三家の絆を強くするとき。互いを疑い始めては、我が国の3か国同盟はおろか、2国間での同盟すら締結するのが危うくなる。それは同盟推進派の瓦解につながってしまう。襲撃理由は貴族を憎む民の怒りが引き起こしたもの……いや、ワシはそうは思わん」
「同盟に関係する者の懇親の場で起きてしまった事実ですか?」
「いかにも。故に貴殿ら、アーバンクルス殿下、トリスクト伯爵代行、ラチャニー以外、今回は
言い切ったアルファリカ公爵を、ラバーサイユベル伯爵は真っ直ぐ見据え、フィーンバッシュ侯爵は恭しく頭を下げた。
「……と、いうのがワシの考えだ。さて、ラバーサイユベル伯爵。いつか、あの黒衣の男にも正式に礼を述べたいと思う。エメロードを救ってくれたその礼を」
「ご心配なさらぬよう。我が命を懸けお誓いします。お嬢様は安全に保護されております。それで、お嬢様にはいつ頃お迎えを?」
「もう少し、ことが落ち着いてから迎えを出そうと思う」
「よろしいかと」
「それで? そちらの方はどうなっておられる。《ルアファ王国》の側は」
下げた頭に降ってくるのはアルファリカ公爵とラバーサイユベル伯爵の談義。
頭を垂れながら黙っていたフィーンバッシュ侯爵は、ここで問われて頭をあげた。
「引き続き、殿下はトリスクト伯爵代行についておられます」
「フゥム、もう……4日か。あれから、トリスクト伯爵代行が眠りについてから」
二人も、あれからこのラバーサイユベル伯爵邸に滞在していた。
その話を耳にしてアルファリカ公爵が遠い目を見せたのを、フィーンバッシュ侯爵は鋭い目で睨みつけていた。
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