第24話 混沌のマスカレード-5 命を預け合う犬猿の仲

「大体わかった」


 独り言を吐いた一徹。

 向かうはエメロード……の前に立つ、エメロードを守りながら戦うあの憎たらしいダンスパートナーの女の所だった。


素材ソーサリー開放、《カマイタチ》!」


 そうして、床材が砕けた音を背に感じた。背に感じたということは……


「貴様っ!」


「『まだいたのか⁉』は無しですよ御令嬢」


 床を踏み抜き、一気に一徹がその場に躍り出た……ということ。


「いやぁ、逃げる気満々だったんですけどねぇ。美しい親子愛を見せつけられたじゃないですか。私も息子がいたものですから、何とも……」


「息……子? 嘘。だって貴方、婚活中だって……」


 到着したことで声を挙げる、プッツンダンスパートナーとエメロードに目を向けず、一徹は集まってくる襲撃者に意識を向けた。


「邪魔をするな!」


「そういう訳にはいかない。防衛線で一番層の薄い場所をカバーしないなんて愚の骨頂だ」


「層が薄いだと! バカにしているのか⁉」


「バカにはしていない。貴女は強い。女流騎士としての実力だって実際、『男女の違い』なんてものはとうに超えている。が、同じ女としてならシェイラの方が強い」


「なっ!」


「つーかシェイラ、すげぇ戦えるのな。ちょっ、あの強さは異常だわ。頼もしくてしょうがねぇ……というより、どっかで……みたことあるような……」


 噛みついてきた《不愉快女》。しかし一徹も、まともに取り合うつもりはなかった。


「御令嬢は強い。だが、貴女のパートナーしかり、私のパートナーしかり……」


「私は貴様にも劣るというのか!」


「戦力の過信は死を招く。先ほどの組み手で、貴女は私をどう感じました?」


 口ごもった女流騎士、とはいえ、それを鼻で笑う余裕なんて一徹にはなかった。


「アガッ!」


 上段から斬りかかってきた男の、胸と腕の繋ぎ目に食用ナイフテーブルマナーセットを一本差し込む。

 それによって男は剣を振り下ろすことが出来ず、痛みに、目を思いっきりつぶった。

 この、深々と刺さった銀食器、その持ち手を、一徹は前蹴りの要領で踏みつけ、蹴り飛ばすと同時に、さらにさらに深くへと打ち込んだ。


「それにね、気付いているでしょう? この襲撃、一見すると町民農民の反乱のようにも見えて、違う奴が混じっている」


「正規兵……」


 状況にたじろぐエメロードを、トン、と、突き飛ばすようにして、自陣深くまで下がらせた一徹。


「ま、元なのか現役かはわかりませんが。やっぱり動きが違う。戦法の取り方もね」


「だから貴様は私の援護に来ることを選んだ。貴様の目から見て、貴様を含めたこの四人で一番弱く穴のありそうなところを、襲撃者、とくに強者が狙ってくるから……で、これはなんだ?」


 その防衛ライン、どこからも通さないようにと、一徹は知らずのうちに不愉快女と背中を合わせに構えを取った。


「目の前に集中してください?」


 こんな状況でも、二人の関係は最悪だ。

 特にルーリィにとっては、《不愉快男》に背中を預けるなど嫌気がさして堪らない。

 それでもそんなことを敵が知るよしなどないから……


「さぁ、来ましたよ?」


「チッ!」


 次々と襲撃者は二人の視界に入ってきた。

 猛然と命を奪う得物を振りかぶっていた。黙って見ているわけにもいかない……から、一徹たち二人は、一歩前へ踏み出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る