第2話 スマホで調べられるような知識、覚えても無駄じゃん!

〈登場人物〉

マイ……中学1年生の女の子。色んなことに腹を立てるお年頃。

ヒツジ……人語を解すヌイグルミ。舌鋒鋭め。



マイ「スマホ一つあればいくらでも調べることができる知識なんて、覚えても意味あるの? 中学校の勉強なんて、実技教科以外は、全部そういう知識ばっかだと思う。それなら、スマホ持ってれば済む話じゃん」


ヒツジ「それは、おおむねその通りだな。中学で覚えたことなんて、まあ、社会に出ればすっかり忘れちまうわけだから、その意味では、覚える内容自体にそもそも意味が無いと言えるし、仮に覚える内容に何らかの意味があるとしても、スマホがあればすぐに調べられるわけだから、それを覚えておくことにもそれ自体では特別な意味は無い」


マイ「じゃあ、なに? 勉強することそれ自体に意味があるってやつ? 勉強することで脳を鍛えるとか、将来の可能性を探るとか、我慢を覚えるとか?」


ヒツジ「そういうことになるだろうな」


マイ「そんなの全然納得できない! 脳を鍛えるためっていうことだったら、別に学校の教科なんかじゃなくても自分の興味があることをすればいいし、将来の可能性を探るってことだったらそんなの小学校のうちにやればいいことだし、我慢を覚えるってことだったら、我慢なんてそもそもする意味なんか無いし」


ヒツジ「それらも、まあ、その通りだろう。ただ、だからって、じゃあ、もう、中学生は今の中学校の勉強は全部やめて、自分が好きなことだけ勉強すればいいだろってことにはならないだろうな」


マイ「なんでよ」


ヒツジ「現にこれまで中学校っていうのはそういう風にして存在してきたからだ。これから、何らかの教育改革が行われていくとしても、一気に全て変えるわけにはいかないだろ」


マイ「全部変わった時代に生まれたかったわ」


ヒツジ「運命だな、あきらめろ。それに、全然興味が湧かない知識を覚えるっていうのも、まあ、それはそれでなかなか面白いんじゃないか?」


マイ「何が面白いのよ!」


ヒツジ「将来のシミュレーションだと思えよ。将来、自分の好きなことだけして生きていくわけにはいかないんだからな。興味が無いこともしなけりゃいけない。その興味が無いことに向かわなければいけないトレーニングだと思えばいいんじゃないか?」


マイ「ちょっ……わたしの将来勝手に決めないでよ! わたしは、将来、自分の好きなことだけして生きていくんだから!」


ヒツジ「可能性はあるが、でもそんなに高くはないだろ。現に、この世の中に、自分の好きなことだけして生きているやつがどれくらいいる? データは知らないが、多くないことは分かるだろ。お前だって、『嫌いなことでもしなければいけないその他大勢』になる可能性の方が、それがまさに大勢であるという点において、高いわけだろ」


マイ「……言い換えるわ。将来がどうであろうと、今つまらないことはしたくないって。学校の勉強つまんない!」


ヒツジ「そんなことはオレに言われてもどうしようもないよ。オレは文部科学大臣じゃないんだ」


マイ「でも、理不尽じゃん!」


ヒツジ「この世の中が理不尽だっていうことを教えるには、学校の勉強をやらせるっていうのも役に立つかもしれないな。義務教育の9年間かけて、実は学校はそのことをこそ教えているんじゃないか?」

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