第20話

{俺の想像する石神先生は、白いオープンカーに乗ってて、

助手席には愛犬のゴールデンレッドリバー。作曲は海の見える別荘で。

紙に音符を書くんじゃなくて、空と砂浜がボクの譜面台なんだ、みたいな}


 ソレに比べて石神サンはぁ……


{だらしない。何て言うのかな、チャライ。一言でチャライ。

何処がって、チャライ感じの金髪なんだよね。品がある金髪じゃないんだよね。

チャラ系の髪の長さなんだよね、

着崩したジャージも黒にゴールドラインで突っかけサンダルとか、もぉ、うわぁ……

何処を取ってもチャライんだ。でも、合コンの時はカッコ良かったな。

ちゃんとすれば ちゃんと出来る人だから、普段はだらしなくても良いかな。

あのチャラさは、隣りに住んでる俺だから見られる特権みたいなもので!}


 石神サンの事を思うと浮き足立つ。楽しい気持ちになる。


{ずっと お隣りサンでいたいな。ソレで、もっと仲良くなりたいな。

毎日 会いたいな。毎日 話をして、一緒にゴハンを食べて、今度は2人で出かけたいな。

ヘッドホン買いに行くの付き合って貰おうかな、クラシックのコンサートにも行きたいな、}


 って、いつから俺は こんなオトメンになっちゃったのか……自分でゾッとする。

そうやって1人で震える俺の背に、マスターが時間を告げる。


「お。由也君、揃々 上がって良いよ」

「ぁ、は、はい!」


 気づいたら時刻は22時。

僕は帰りの支度を整えて、店先で待っている浅野先輩と合流する。


「お待たせしました!」

「ううん。急がせてゴメンネ。アパートまで送るよ」

「えぇ?」


 失礼しちゃうな、女性に送って貰わなきゃならない程、俺は軟弱じゃないんですけど?

バカにされているのか、ガキ扱いされているのか、どっち道だよ。

ソレでも女性相手に反論するのもカッコ悪いので、俺はそのまま渋々と帰路を目指す。

傍らの浅野先輩をチラチラと見ながら。


{石神サンとヤッたんだ、この人……}


 知ってると、そうゆう目で見ちゃうよね。


 ってゆうか、石神サン、やっぱチャライよ。

会ったその日にヤッうちゃうとか、本当 最低! 最悪! 道中 引き回しの上、晒し首!

俺のOBだって知ってるんだから、普通に茶ぁ濁してサヨナラ出来なかったわけ?

俺との今後の付き合い、どうするつもりだったわけ?

どのツラ引っ下げて お隣りサンするつもりだったわけ? ファックヤロー!


「なぁに?」

「え!? ぁ、ぃえ、別に……ハハハ、」


 俺の視線を訝しんだ浅野先輩は困り顔。

ちょっと見すぎた、ごめんなさい。


「えっと、お話って?」

「ぁ……ぅん、実はね、石神サンの事なんだけど、」

「チッ……」

「え?」

「いえいえい、石神サン、石神サン、はいはい、お隣りサンが何か?」


 心の舌打ち、口から飛び出しちゃったよ。聞かれちゃったよ。

冷や汗ものの俺を横目に、浅野先輩は顔を赤らめる。


「実はぁ……送るってのは口実で、石神サンの家に行ってみたくて……アハハ、」

「ぇ?」

「べ、別にストーカーとかじゃないからね! ただ、そのぉ……

今日 暇かな? って、連絡したんだけど、返信が来なくて……

私、何かマズったのかな……だったら謝りたいって言うかぁ……

会いたいって言うかぁ……」

「……」


 何ソレ?

スゴーく出来あがってんじゃないですか、2人の世界。



{アホくせ}



 冷める。スっっゴく冷める。氷点下。バナナで釘が打てますってくらい。


「なるほどぉ、ソレで俺をダシに使おうと?」

「ソ、ソレはぁ……ぅぅ、ゴメンってばぁ。

だって、由也クンしか頼るアテが無いもんだからぁ、、

由也クンとこの客って事で顔が見れればイイのよ、挨拶 程度させて貰えればソレで!」


 浅野サンは石神サンの住まいを知らない。あのボロアパートの場所を知らない。

本当、都合よく使われちゃうもんだよね、俺って。


{合コンなんか、開かなきゃ良かった……}


「しょうがない。先輩たっての頼みなら聞かないわけにもいきませんからね」

「うわぁ、アリガト、由也クン!」


 挨拶したら、とっとと帰ってくださいね。




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