第31話 ゲームで描かれることのなかった二年間は、ぶっちゃけ平穏です

 シルヴィアへ

 約束通り、手紙を書いたよ! 届くかひやひやしてるけど。

 そっちは落ち着いた? もしできそうなら、学園に手紙をちょうだい。

 あ、あと! エドワード皇子のことなんだけど、何とかなりそうだよ。

 皇子が三年生になったら城に呼び出されることが多くなって、顔を合わせなくていい日が多くなったんだ! たぶん、いろんな思惑があるんだと思う。

 ルースもシルヴィアのことで一時期は落ち込んでたけど―もちろん私もだけどね! ―今は、いずれ役に立つんだ! って頑張ってる。

 私とはあくまで「良い友人」なんだって。本人が皇子に言い張ってた。

 でもひどいんだよ! 「もっとイチャついたらよろしいのに」とか言って、皇子と手を繋がせようとするし。「目の前でキスされても平気ですよ」とか言うし! 危うくされかけたよ!!

 拒んだけどね!?

 皇子と二人きりには絶対にしないから、わざとだって分かってるけど、それでもどうかと思うよ!? これで何かあったら、本気で恨んでやる。

 そんなこんなで、こちらは比較的順調です。そっちも順調だったらいいんだけど。

 お便り、待ってます。

                 ハルカより



 ハルカへ

 手紙は無事に届きました。こちらも順調よ。大丈夫。

 ルースのこと、嫌わないであげてね。貴女を守ろうと必死なんだと思うから。

 それにエドワード様との事はそのうち解決すると思う。今、エドワード様とハルカを引き離そうと、王家が全力で動いているみたいだから。だから安心しててね。

 ああ、それと、さっそくギルフォードと接触したわ。予想と違って、あちらはあまり積極的でもなかった。どういうつもりかしら。ま、それはこれから探っていくつもり。

 そうそう、自分でも驚いているんだけど、私って料理作るのが上手かったのね。

 ダンジョンでの食事を少しでも美味しくしようとしていたら、いつの間にかパーティーメンバーが増えてたわ。というか、ご飯を作ってると冒険者が寄ってくるのよね。

 携帯食料も改良したんだけど、それが好評で今度ギルドで売り出すらしいの。風魔法を応用すると乾燥系の携帯食料ってわりと新鮮なまま作れるの。

 売り上げの何割かをくれるって話だったから、お金の面でも楽できそう。

 そんなわけで、心配ご無用よ。ちょっと冒険者っぽい言葉を使ってみました。

 それではまた、お便りします。

                シルヴィアより



 シルヴィアへ

 手紙をもらった時、本当に嬉しかった! ありがとう!!

 それにしても、たくましい! 本当に公爵令嬢だったの? それにダンジョンで料理って余裕だね!?

 まあ、料理の腕は分からなくもないなぁ。というか、すごい羨ましい。私も食べたいー。

 え、でもさ、食材は現地調達なの? …………………もしかして、自分でさばいたりするの?

 想像して、ちょっと怖くなったんだけど。シルヴィアならやりかねない、と思っている自分がいます。

 こっちは本当に楽チンな毎日を送っています! というのも、ついにエドワード様が城からもどってこなくなったから!! シルヴィアの手紙の通りだった。

 おかげで気楽に学生できてます。

 そう! エリーナさんが特別講師として学園で授業したんだよ!! 今は研究所で働いてるんだって。

 ベイゼル先輩とは良い意味で同僚なんだそう。相変わらず、研究好きな二人だよね。

 まあ、ベイゼル先輩の方は研究所にこもってるらしいけど。

 と、こちらはこんな調子。また手紙を書くね! じゃあね!!

                  ハルカより



 ハルカへ

 エドワード様と接触しなくてよくなったのなら安心だわ。よかった。

 そうそう、エリーナ様の噂は冒険者でも聞くことがあるの。リフィテインの癒し手とか、水の乙女とか、国を跨いで水質問題を研究しているというのだから、たいしたものね。

 もっとも彼女の場合、研究に行った先々で治癒魔法の普及にも励んでいるから、そちらの方が有名になってしまっているんだけど。

 でも彼女のおかげで神殿に診療所が併設されたりしたのよ。いろんな国を渡り歩く冒険者にとって、神殿で治療が受けられるのはありがたいわ。

 どうもその辺りと、彼女の研究には関係がありそう。それは詳しくルースに報告しておくわ。

 そういえば、ハルカはルースと仲良くしてる? それとも破局した?

 でもまだ一年以上、一緒にいなきゃいけないとなると、どうにも落ち着かないものよね。

 かくいう私が、今その状態。端的に言うと、ギルフォードが相方になったの。

 お約束といえばそれまでなんだけど。

 シナリオなのか分からないけど、パーティーメンバーの一人に求婚されて、そしたらいつの間にか『勝った男が夫になって良し』っていう妙な大会が催されて。

 で、そこでギルフォードが勝っちゃったのよ。

 断ってやろうとしたら、「お前みたいな嫁はいらない。が、その魔法は欲しい。仕事の相方になってくれ」だって。

 本当に、どこまでがシナリオかしらね。それとも、あの舞台そのものがあの男の用意したものだったのかしら。

 ともかく「それならいいわ」って言ったら、これまた何故かパーティーメンバー全員が抜けちゃったの。おかげであの男と二人きりよ!

 まあ、メンバーがいなくなった理由は分かるけど。

 ええ、あの男、周りの人間にあわせるってことをしないのよ! 私でなかったら、とっくに死んでるわ!!

 おまけに喋らないし。根暗だし。趣味は呪具集めだし!

 私も何度か本気で離れようかと思ったくらいよ!!

 本当に、どういうつもりかしら? 私を闇魔法に落とそうとするわけでもないし。私を探ろうともしない。まあ、警戒されているのかもしれないけど。

 それにしたって腹が立つのは、あの男の実力が本物だってことよ。魔法も一流なのに、剣の腕も一流って、どんだけなの!!

 ごめんなさいね、こんな愚痴の手紙。次回は明るい話題を書けるといいんだけど。

 じゃあ、また手紙を書くわね。

                 シルヴィアより



 シルヴィアへ

 そんなことになってるんだ。シルヴィアが振り回されるなんて、珍しい。

 というより、何? その大会? いや、シルヴィアをものにしたいと思う男の人は多いと思うよ? でも、方向性、間違ってない?

 てか、シルヴィアがそれをどんな構図で見てたのか、気になるんですけど。

 やっぱり優勝商品的なとこにいたの?

 でもって「お前みたいな嫁はいらない」って言われたの?

 言ってくれるね、ギルフォード。さすが隠し攻略者。ロクでもない気配がぷんぷんするね!

 ま、それをいったらルースもロクでもない攻略者の一人なんだけど。

 というより最近のルースは横暴だよ!

 いや、分かるよ? 身を守る為には剣も必要だし、最低限の護身術を身につけておいた方が良いってのは。

 にしても、厳しすぎ! でもって口うるさすぎ!!

 稽古中に薄着になるくらい、いいじゃない! 暑いんだもん!!

 なんか、もう乙女ゲームじゃなくなってきたよ。スポ根入ってるよ。

 恋愛要素どこいった!? って感じ。いや、求めちゃいないけど。

 でも、もっと、こう! 女の子扱いしてよ? みたいなねー。

 ぶん投げられるし、荷物みたく肩に提げられるし。いや、気絶する私が悪いんだけどー。

 お姫様抱っこして、とは言わないから、せめておんぶしてー。

 って、私も愚痴の手紙になってた。いかん、いかん。

 次は良い報告するからね! では!!

                  ハルカより



 ハルカへ

 気絶って、何をしてるの? 剣の稽古なの? どんだけスパルタ?

 ああ、でも私もルースにはスパルタだったかも。

 こっちは毎日がサバイバルよ。おかげで大抵のことには驚かなくなったわ。人間、習うより慣れろ、ね。

 ギルドマスターにも一目おかれはじめて、着実に大陸一の魔女の座にむけて上っていってるわ。

 でもって、ギルフォードは……………………相変わらずよ。

 肝心なことは変化なし。最近は探ることに疲れて適当に相手をしてる。

 どうせ事が動きだしたら分かることだし、警戒するのが馬鹿らしくなってきて。

 だから、まあ、普通の冒険者と同じと思って、一緒に仕事して、打ち合わせして、旅して、前やってたことと同じことをするようにしたの。

 そしたら意外にも、料理は食べるのよ、あの男。でもって、ご飯食べたさに、こっちの頼み事を聞くようになってきたのよね。やっぱり胃袋をつかむって大切ね。

 もちろん、ご飯は自分で狩って、さばいて、調理しますとも。当たり前でしょ。

 そうそう、あの男の、私が鳥の血抜きし始めたのを見た時の顔ときたら!

 ぎょっとして「何してるんだ?」って聞くから「ご飯を作ってるの、見て分からない?」って言ってやった!

 今じゃ、いそいそ自分で狩ってくるしまつよ。そのうちさばき方も覚えるんじゃないかしら。

 ともかく、こちらは順調よ。ハルカこそ、辛いならどんどん愚痴ってね。

 手紙、待ってます。

                 シルヴィアより



 シルヴィアへ

 さすがだ。もう、それしか書けないよ!

 なんかもう、私の悩みなんか消し飛んだよ。

 そうだよね、難しいこと考えずに、目の前のことをやっていけば結果は自然とついてくるものだよね!

 ルースのこと、正直、ちょっと自惚れてたんだ。好きでいてくれるんだって。ヒロインだしね。

 だから、なんだかなぁー、なんて思っちゃってた。恥ずかしい!!

 何の為に頑張ってるか分かんなくなってた。でも大丈夫。ちゃんと思い出したから。

 私達が選んだ未来を実現させる為に、今頑張ってるんだよね。

 そこに乙女ゲームとか、攻略者とか、悪役令嬢とか、関係ない。

 シルヴィアは一人で戦ってて、ルースは精一杯協力してくれてる。私も頑張らなくちゃ。

 大丈夫だよ、辛くないよ!

 シルヴィアに会えないのは寂しいけど、頑張れる。

 だって思いは一緒だって信じられるもん。

 こっちも順調! だから、心配なんかしないで。

 そう、良い報告を書くね。

 なんと、馬に乗りながら魔法が使えるようになったよ!

 あ! あと、リヒャルト様がついにアカツキをくれたの。ものすごい苦笑いしてたけど。

 でもアカツキは私と一緒に戦ってくれる馬だって、信じてる。

 シルヴィアと会うまでには、剣も使えるようになってるからね!

 だから、絶対にリフィテインに帰ってきてね。私達、待ってるから。

 また手紙、書きます。

                  ハルカより





 ギルド本部の食堂で、シルヴィアは自分に届いた手紙を眺めていた。

 そんな彼女の前に黒銀色の髪の男が立つ。

「手紙か」

「ええ。大切な人から、送られてくるの」

「大切、か。それなのに燃やすのか」

 いつも通り灰皿の上で手紙を処分するシルヴィアを、男は冷たい碧眼で見ていた。

「そうよ。なくなったところで、何の問題もないもの」

 美しく微笑んで、シルヴィアは男に聞いた。

「で、次の仕事は何? ギルフォード」

 彼はそんな彼女を、ずっとずっと見つめていた。

 出会った時から、ずっと。





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