第21話 正直、攻略者より婚約者の方が魅力的に見えるんですが
フェリエルが百合なヒトでも、親達が決めた結婚に甘んじているわけでもないことがハルカにはっきりと分かったわけだが。
ここでハルカに疑問が一つ。
「あのー、フェリエル様? 質問していいですか?」
「ああ! 何でも、というわけにはいかないが、守秘義務に反しないものなら答えるぞ!」
いや、そんな国家機密をハルカは聞こうなんて思っていない。
「えっと、フェリエル様がリヒャルト様を好きなことは分かったんですけど、いったいリヒャルト様のどこを好きに?
いや、聞いちゃ悪いとは思いますよ? あとリヒャルト様に魅力がないとかも思ってませんよ?
ただ、フェリエル様みたいに騎士団にまで入隊できるほど武芸に秀でた、しかも頭もいい人が、リヒャルト様を好きっていうのが不思議で」
釣り合わない、とまではいかなくとも、フェリエルにはもっと渋くてゴツい騎士の方がお似合いな気がしてしまう。というか、彼女が男前すぎる。
しかもリヒャルトは従兄弟で、いわば弟のようなものだろう。そんな彼をフェリエルが恋愛対象としてみている、というのがハルカには不思議だったのだ。
「やはりハルカは変わっているなぁ。
まあ、何だ、こーゆー話しになったことはないんで、こっぱずかしいんだが、隠すようなことでもないしな。
端的に言ってしまえば、私はアイツに負けた。どこが好き、とは言えないが、それが私の全てだったんだよ」
「えっ!? 負けたって、フェリエル様が?」
「何を驚くんだ? リヒトに勝てる剣士はそうはいないぞ? 女の私など、アイツがこの学園に入学する前から負かされている」
そこでフェリエルはふっと笑った。
「私とリヒトはそれこそ姉弟のように育ってきた。初めてアイツに負けた時は、そりゃあショックだったさ。それと同時に、女の私が剣を振ることに迷いも感じた。剣を捨て淑女として生きようかとも考えた。
けどなぁ、リヒトが、アイツがいっちょまえに剣士になって、私より強くなって………………男になったんだと知った時、ふと、おいていかれたくないって思ったんだ。
私はそこでようやく自分の気持ちを自覚したってわけさ」
フェリエルは懐かしそうに、ハニカミながら話してくれた。
超乙女! 頬を赤らめてるとか、カワイ過ぎる!! 思わずハルカは、この人可愛い!! と悶絶する。
「でも、気持ちを自覚なさっても、やり方が空回っていませんこと?」
シルヴィアの突っ込みにフェリエルはぽりぽりと頬をかいた。
「かなぁ?」
「ですわよ。リヒャルト様を想ってのことだとはいえ、先に騎士団に入隊してしまわれるなんて、殿方の自尊心をずったずたに傷つけていますわ」
「しかしなぁ、薔薇騎士団は若いうちから入らねば意味がないし」
「あ! ちょぉっと質問!! その薔薇騎士団って何?
えと、女性騎士団ってのは聞いたけど? でも女性の騎士団ってそもそも何の為にあるの?」
その質問は守秘義務に反しないものだったようだ。フェリエルが答えてくれる。
「薔薇騎士団は主に宮廷、それも男子禁制区の警備、またはご令嬢を護衛する部隊なんだ。ほら、男だと間違いがあっちゃいけないだろ? それで私達の出番ってわけさ」
「なるほど〜、納得!」
きちんと意味がある、しかも実用的な騎士団といわけか。やはり彼女は凄い人なのだ。
ハルカが感心していたら、シルヴィアがため息を吐きつつフェリエルに忠告した。
「薔薇騎士団は確かに立派な仕事ですが、ある意味においてお飾り、それも宮中女子の慰みですわ。
赤薔薇様などという二つ名までもらってしまって、フェリエル様は女色家だ、なんて噂すら出ておりますのよ?
ただでさえリヒャルト様は貴女に負い目があるというのに、それでは心が離れるはかりです」
「うぐ。で、でもな? 仕事が忙しくてだな?」
「その発言がすでに男性じみているというんです。令嬢としてはまったく駄目です。
女性として殿方の喜ぶことを学びなおしたほうがよろしいですわ」
容赦なく言ってのけるシルヴィアだが、フェリエルも黙ってはいない。
「そういうシーアだってエドワード殿下に距離をおかれてるくせに。出来すぎる女は扱いにくいってもんさ」
「あら、出来すぎることの何がいけないのでしょう? そんな事を気にする度量の狭い男など、願い下げですわよ」
どうしよう。婚期逃しそうな女子のお手本みたいな会話が、ハルカの目の前で繰り広げられてる。
「………………ってより、二人共、強過ぎるのがむしろアダなんじゃ」
ぽつりと言ったハルカに、二人が固まった。そして二人は同時に溜め息を吐いた。
「やっぱりなぁー、男はか弱くて守ってあげたくなるよーな女の子が好きだよなー」
「そんなの、頭の悪い男だけですわ。本当に格好良い殿方は本質をみるはずです」
「悪かったな、リヒトは頭が悪いんだよ。あと、それ言ったらエドワード殿下もだぞー」
「……………………止めましょう。不毛だわ」
デキすぎる女って、どうしてこうも女子的に不利なのか。いや、この二人だけなのか。
そんじょそこらの男よりも、この二人の方が格好良いのだが。あ、それが問題なのか、と、ハルカはしょうもないことに気付いてしまったりした。
「でも、リヒャルト様の為に薔薇騎士団に入隊って、何故?
もっとこう、内助の功? 的な方が、何と言いますか、オトしやすかったのでは?」
ヒロインとしてどうなんだそれは? な意見とは百も承知でハルカは言ってみる。
女子的には真っ当すぎるそれに、フェリエルが苦笑いした。
「だよなぁ。私もそう思う。母上にも『騎士の妻は夫の無事を信じて待つのが仕事』だって言われたさ。けど、私は嫌なんだ。リヒトが死地を駆けている時、何もしないでいるのは。
一緒に戦地を駆けられなくとも、いざとなれば戦える、役に立てる、背中を預けてもらえる女でいたいのさ。
我ながら可愛げがないと思うがね、私は『死んでも貴女を守る』なんて言われるのは、絶対にお断りなんだよ。
守って死んでしまうくらいなら、共に戦えと言って欲しい。そして、そう言ってもらえるに相応しい実力でありたい」
きっぱりと迷いなく言うフェリエルにハルカは感動した。
この人は本当に一途なのだ! そして健気!!
ハルカは、ちょっと今からでもリヒャルトを捕まえて「お前の目は節穴かァッ!?」と胸元を揺さぶりたかった。
ああ、だから彼女はヒロイン容認だったのだ。
惚れた男が選んだ女性ならば、と自分の想いを殺せるほどに、フェリエルはリヒャルトを愛しているのだ!
ハルカは思った。いっそリヒャルトを殴りたい! 殴って目を覚ませと言ってしまいたい!!
しかし、フェリエルがそれを望まないことは明らかだ。
彼女はきっと、馬鹿なことと知りつつリヒャルトの想いを尊重しようとしている。だからこそ、ハルカを見定めにきたのだ。
だとするならハルカにできることは、リヒャルトがいつか踏ん切りをつけた―それが告白になるか諦めになるかは分からないが―その時に、きっぱりと引導を渡すくらいだ。
あぁ、それを待ってあげるとか、どれだけイイ女なのか! もう格好良すぎだ!!
こうして男前な婚約者の出現により、ハルカにとってのリャルトの存在が限りなくフェリエルの付属品に近くなったのは、ある意味において当然なのかもしれなかった。
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