12 準備は整った

 それから約一週間後、廉司は無事に仕事を終えて戻ってきた朴から報告を受けていた。

 応接間のテーブルいっぱいに広げられた沢山の写真は、どれも鮮明に被写体を捉えている。さすがは盗撮趣味を自ら打ち明けただけの事はある。


 ターゲットである白スーツの男の背景に頻繁に写る雑居ビル。廉司はその建物に確かに見覚えがあった。

 飛廉会のシマである深更通りエリアと、一本の道を挟んで対峙するように縄張りを持つ組織――つじ組の事務所である。

 廉司は薄っすらと唇の端を持ち上げた。


「まさか、お隣さんとはな」

「……この白スーツは辻組の若頭補佐で浜岡はまおかといいます。肩書はそこそこですが、カタギ相手の窃盗、恐喝罪で前科マエがあります。……あまり頭のいい奴では無さそうですね」

「半グレを使ったシャブの売買はコイツのアイディアか?」

「確証はありませんが……間違いないと思います。辻組の内部でも、後先考えずにトラブルを起こす浜岡を煙たがる奴は多い。そんな中で捨てられずにいる為には、これ以上自分の手を汚さず、なおかつ誰よりも稼ぎを上げることが一番だと考えたんでしょう」


 別の写真には古いアパートの部屋に外国人らしき男を訪ねる浜岡が写っている。


「コイツが運び屋か」

「包みを受け取ってますね。浜岡が金を渡している写真は……無いか」


 夏目が目当ての一枚を探していると、朴が足元に置いていたスポーツバッグからビデオカメラを取り出して見せた。

 夏目と目を合わせ、ニヤリと笑う。


「焦らしてんじゃねぇよ」

「すみません。あんまり上手く撮れたんで、つい……」


 朴は自画自賛しながら応接間に置かれた70型テレビにケーブルを繋いだ。動画が再生される。物陰から撮られた取り引き現場がはっきりと見て取れる。十分すぎる証拠だ。


「朴、ご苦労だったな。いい仕事をしてくれた」

「……ありがとうございます」

「この動画とこの写真、何枚か。コピーできるか?」

「わかりました。……すぐ用意します」

「よろしくな。さて、いいモンが手に入った」

「若、これからどうします?」


 浜岡の写真を一枚手に取り、廉司は考えを巡らせる。


「どうせなら美味く料理したいからな。少し時間をくれ」


 手にした写真を目の高さで左右にしならせながら、正面に座る夏目と朴に意味深な笑みを浮かべた。

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