第34話 光の球と奏でるプレリュード

「ええと、アビスモはしばらく シノブのことを守ってくれないかな」


「詳しく教えろ」


「んー。後でのお楽しみかな?じゃあ僕は生まれたてのドラゴンたちをとりあえずなんとかしてからまた戻るから。頼んだよ」


 笑顔で首を傾げながらとぼけるルリジオにアビスモは小さく舌打ちをしてから呆れたように笑う。それを見たルリジオは肩を竦めてから愉快そうに笑うとしのぶにウインクをして卵の殻を破って出てきたばかりのドラゴンたちが頭を持ち上げている場所へと駆け出していく。


「さて…さっきルリジオさんからもらった材料をここに並べて…と」


 信は、大量の銀色に光る糸と、幾つかの巨大な魔石や貴金属の類をルリジオから渡されていた袋から取り出して地面に並べ始めた。


「糸と貴金属…なるほど」


「きゃー!久々に見るかもぉ。余った材料でまたわたしにも新しい服作ってくれないかしら?」


「なにかの儀式でもはじまるというのか?」


 更に、袋から仄かに光を放っている色とりどりの花を取り出して並べている信を見て、なにかに納得しているスコルとハティとは対象的に、オノールは首を傾げて信の奇妙に見える行動を見守る。


「あとは…この光る鱗粉を用意してっと」


 信が並び終えた材料を見回して一人で頷く。そして静かに信が目を閉じて、手を並べた材料の方へ翳すと、白い光の球たちが踊るように揺れながら材料たちを浮き上がらせた。


「これは…」


 目の前に半透明の障壁を張り、時折飛んでくるドラゴンのブレスや、魔物の女王が動く度に落ちてくる大小様々な岩の礫を防ぐ傍ら、アビスモは信が操る魔法が目新しいのか、切れ長の目を大きく見開く。

 みるみるうちに銀色の糸たちは踊るように優雅に動く光の球たちによって薄く透けた煌めく一枚の布になっていく。

 それは、魔物の女王ですら包んでしまえそうな巨大な布だった。さっきまで目を閉じていた信が目を開き、腕組みをして踊る光る球たちと、光りに包まれた材料達を眺めている。


「俺の好みでいいのかな…とりあえずっと」


 アビスモが驚いていることにも気が付かないまま、信は指揮者のように優雅に両腕を振ると、それに呼応するように光の球たちはせわしなく動き始めた。

 花や鱗粉で染め上げられた糸は、先程できたばかりの透けた銀の布上を走るように刺繍を入れていく。

 貴金属や魔石はあっというまに加工され、ブローチになると出来上がっているドレスの胸元を飾り始めた。


「これは創造の…魔法…じゃないか」


 信の魔法を口をあんぐりとあけたまま見ていたオノールが、やっと絞り出すように声を出した。


「剣の腕も魔法も特別強いわけではなく…意志の力と強運でここまでやってきたかと思っていたが…クソ…俺様の審美眼も鈍ったものだ」


「俺の世界でも…こんな大規模な創造の魔法を使うヒトはそういない…。案ずるな鎧の女。こんな希少な魔法を使えるヒトがいるなんて誰も思わん」


 自分を慰めるようなアビスモの言葉にオノールは苦々しい顔をしながら頷くと、着々と出来上がる巨大なドレスを見上げて眩しそうに目を細めた。


「さてさて、そろそろ出来たかな」


 遠くからでも信がドレスを作っている光が見えたのか、少し息を弾ませて戻ってきたルリジオに信は頷いてみせる。


「あとは、ルリジオさんが少しあの魔物の女王様の動きを止めてくれればいけそうです」


「では、巻角の君へサプライズプレゼントと行こうか」


 真っ白なマントをはためかせ、完成したドレスの周りをまとわりついていた光の球と戯れるようにしながら、形の良い唇の両端を持ち上げたルリジオはそういって金色の髪を揺らす。


白毛皮の君ハティ黒牙の君スコル、そして小さなドラゴンくんは僕と一緒に来てくれるかな?」


「オノール殿とアビスモさんは俺と一緒にこちらへ行きましょう」


 そのまま平地を突っ切って魔物の女王へと向かう四人を見送ったあと、信は今自分たちがいるところのすぐ近くにある小高い岩山を指さしてそういった。

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