第44章:ハンガリー攻防戦

[1] デブレツェン攻防戦

 第2ウクライナ正面軍は自軍を再編してカルパチア山脈を越え、ハンガリー西部への進撃を準備していた。第40軍(ズマチェンコ中将)と第27軍(トロフィメンコ中将)、ゴルシコフ機動集団はプロエスティの北方でトランシルヴァニア地方に通じるカルパチア山脈の峠を確保した。第6親衛戦車軍と第53軍(マナガロフ中将)はブカレストの西方を掃討し、カルパチア山脈を越えてクルイの西方でハンガリーとの国境に達した。

 ハンガリーを守っているドイツ軍の戦力はかなり手薄なものだった。南方軍集団(9月24日、南ウクライナ軍集団より改称)には、ドイツ軍の第6軍(フレッター=ピコ大将)と第8軍(ヴェーラー大将)とハンガリー軍の第2軍(マヨル大将)と第3軍(ヨーシェフ大将)を擁していた。

 第2ウクライナ正面軍司令部はハンガリー東部に展開する第8軍とその両翼を守るハンガリー軍(第1軍・第2軍)を南北翼より挟撃する作戦を立案した。この作戦は「デブレツェン」作戦と名付けられ、新編成の第4ウクライナ正面軍と協同することも定められた。

 10月9日、第6親衛戦車軍は交通の要衝デブレツェンを脅かす地点まで達した。時を同じくして、プリエフ機動集団(第2・第4親衛騎兵軍団と第7機械化軍団)は北西に100キロも前進してハンガリー東部を流れるティサ河に橋頭堡を確保した。

 10月10日、第6軍の再建部隊として編入された2個装甲師団(第1・第13)がプリエフ機動集団に対する反撃を開始した。

 10月20日、第2ウクライナ正面軍はようやくデブレツェンを占領し、その2日後にはデブレツェンの北方50キロに位置するニーレジハーザまで進出した。この日までに南方軍集団は戦車133両を喪失したが、第2ウクライナ正面軍は配備された戦車の7割に当たる約500両を撃破されていた。

 この戦況を受けたヒトラーは南方軍集団司令官フリースナー上級大将に対し、ハンガリー東部からの撤退を禁止するのと同時に、装甲部隊による大規模な反撃をデブレツェン周辺で行うよう命じた。

 10月23日、南方軍集団はニーレジハーザ周辺で第503重戦車大隊を含む第3装甲軍団(ブライト大将)と第17軍団を投入して、プリエフ機動集団への包囲作戦を開始した。プリエフ機動集団は包囲網から脱出する際に大きな損害を被り、ドイツ軍は同月26日にニーレジハーザを奪回した。第2ウクライナ正面軍による第8軍の包囲作戦は失敗に終わり、デブレツェン北方で戦局が膠着しつつあった。

 モスクワの「最高司令部」はデブレツェン周辺にドイツ軍が多くの装甲部隊を集結させたことにより、その南翼が弱体化していることに注目した。そこで、南方のゼゲドからブダペストを攻略する作戦を立案した。その進撃路はブタペストへの最短ルートとなり得る。

 10月28日、スターリンは自ら第2ウクライナ正面軍司令官マリノフスキー元帥に電話をかけ、ただちにブダペストに対する攻勢を開始するよう命じた。

「『最高司令部』は政治的な理由から、5日しか待てない。正面軍の攻勢軸をただちにブダペストへ差し向け、5日以内にブダペストを占領するように」

「ブダペストへの攻勢はすぐに開始する予定ですが、ハンガリー軍の抵抗は無視できず、5日で占領するのは不可能です。政治的理由とは何ですか?」

 マリノフスキーの問いに、スターリンは「明日、攻勢を開始せよ」とだけ繰り返して電話を切ってしまった。スターリンの脳裏には11月7日の革命記念日の演説で、ハンガリーの首都をソ連軍が占領したことを内外に宣言するつもりだった。

 10月29日、第2ウクライナ正面軍は攻勢を再開した。ブダペスト攻略を主眼としたこの攻勢は第7親衛軍(シュミロフ大将)と第46軍(シュレーミン中将)により、市街地を南北から包囲することになっていた。この攻勢の矢面に立たされたハンガリー第3軍の薄く伸びきった陣地はたちまち崩壊してしまった。

 10月31日、第2ウクライナ正面軍はブダペストの東方86キロに位置するケシュケメトを占領した。ソ連軍がブタペストに突入するのも時間の問題と思われたが、その進撃は足止めされてしまった。

 11月3日、第3装甲軍団はハンガリー第3軍の支援を受けてブダペストの近郊で反撃を行い、市街地に迫る第46軍の進撃を停止させることに成功した。

 11月10日、第2ウクライナ正面軍は再建したプリエフ機動集団を投入した。プリエフ機動集団はゼゲドに迫ったが、悪天候と南方軍集団の頑強な抵抗が重なり、同月20日にブダペストの直前で攻勢を食い止められてしまった。

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