第5話 ボウリングバトル後編

「さて、私からね」

 咲は気合を入れる。心なしか少し緊張しているようだ。

「咲、身楽なんかに負けたらだめなのだ」

「ええ、ありがとう、ノエルちゃん」


 咲が投じた一球目。いつも通りギリギリでカーブし、ど真ん中に当たった。しかし惜しくも九ピンだった。

「よし、咲姐さんがストライク取れなかったぞ」

「私としたことが、不覚だわ」

「咲さん、切り替えていきましょう」

「そうなのだ。終わったことは仕方がないのだ」


 ここ大一番の場面に外野の俺たちも力が入る。続く二球目。咲は手堅くスペアを取ることに成功した。

「勝負は次ね」

 ボーリングの最終フレームはスペアを取るともう一回投げることができる。咲としては次こそストライクがほしい場面だろう。

「さあ、いくわよ」


 咲が投じた運命の三球目。球はいつも通りに真ん中に的中した。しかし今回も一球目同様に一ピンだった。

「なんで倒れないのよ!」

 咲は大きく悔しがる。これで順位が入れ替わる可能性が大きくなったからだ。

「咲さん、まだ試合は終わっていませんよ」

「そうなのだ、身楽も相当プレッシャーなはずなのだ」

 確かに身楽の表情はいつもよりも固くなっている。

「男の意地、見せてやれよ」

「任せろ。咲姐さんに勝ってみせる!」

 スコアはかなり競っている。身楽がストライクを二回出せば勝利、スペアで次をストライクとっても勝利だ。

「よし、いくぜ!」


 身楽の投じた一球目。ものすごいストレートで真ん中に当たる。しかし結果は九ピンだった。

「くそっ!」

「身楽、落ち着いていけよ」

「あら、教也君は身楽君の方を応援するのね」

「まあ競ったほうがおもしろいからな」


 身楽が投げた二球目。本来の身楽なら確実に倒していただろう。しかし焦りからかガターだった。

「勝負とはあっけない幕切れで終わるものなのだ…」

「ああ、まさか三球目にたどり着くことすらできないは」

「私ももっとスリルを味わいたかったのに、残念よ」

「金平さん、お疲れ様でした」

「くそっ、俺はこんなにもプレッシャーに弱かったのか…」


 これですべての順位が出そろった。一位は咲、二位は身楽、三位は俺、四位はノエル、最下位はきららという結果だった。

「さて、では一応罰ゲームでもやるか」

 そうだった。確か身楽が最初にそんなことを言っていた気がする。

「ちなみにガターのほうを調べたらノエルちゃんがトップだったみたいよ」

「…なんとなくそんな気はしていたのだ」

 これで罰ゲームとしては咲がきらら、身楽がノエルに命令することになった。

「てか今回の俺まじで見せ場なしだな」

「まあまあ、その分俺が命令してやるからよ」

「じゃあ私から発表するわね。きららちゃんはこれからは教也君と身楽君のことを名前で呼ぶことにしてね」

「ええ!なんだか緊張します…」

「早速呼んでみてもらえるかしら?」

 こういうときっていまから呼ばれる俺たちも緊張するものだ。

「ええっと、身楽さんに…教也さん」

「はい、オッケーよ。これからもそう呼んであげてね」

「うう、恥ずかしいです…」

 咲は一位になったのに自分のために使わないとは、本当にすごいやつだ。

「じゃあ次は俺がノエルに命令だな。じゃあノエルはこれから死ぬまで永遠に俺のことを身楽様って呼ぶことな!」

「そんなの絶対に嫌なのだー!」

 ノエルはそういうと同時に必殺ノエルパンチを繰り出した。油断していた身楽はクリーンヒットした。

「まあ悪は滅びるってことね」

「ああ、そうだな」

 こうして身楽の命令は時効となった。ボーリング場を出ようとした時、俺はきららに呼び止められた。

「ん、どうしたんだ?」

「あの、これからもまたよろしくお願いしますね、教也さんっ」

 きっときららは俺の名前を呼びたかっただけだろう。俺はあえて何も言わずにきららと一緒にみんなの元へと向かったのだった…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

桜の奇跡 子竜淳一 @orora

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ