第6話 アメリカ(LAで襲われた話)

 ロサンゼルスには一年ほど住んでました。


 とある週末。ダウンタウンにあるダンスクラブへと繰り出して友人たちとバカ騒ぎ。ひとしきり楽しんだ僕は明け方4時頃に車で地元へと戻ってきました。小腹がすいていたので、ジャックインザボックスというハンバーガー店のドライブスルーへと向かいます。


 あたりは真っ暗。敷地内に車を乗り入れると、遠くにちらりと人影が横切ったように見えました。眠かったこともあり、特に気にも留めず注文コーナーへと進みます。「いらっしゃいませ。ご注文は?」とスピーカー越しに店員が訊ねてきた時でした。


 ドカン! 突然、大きな音とともにボンネットに男が飛び乗ってきたのです。男はそのままフロントガラスに倒れこむようにへばりつき、バン! バン! とガラスを叩きます。


 あまりの事態に心臓が凍り付くほどびびる僕。若い白人です。どうみても目がイッちゃってます。


「タバコちょうだい! タバコちょうだい! お金もちょうだい!」


 大声で喚きながらフロントガラスを叩き続ける男。


 アメリカの場合、相手が銃を持っていることもあります。もしものときは構わず轢いて逃げようとシフトレバーをパーキングからドライブへチェンジ。ブレーキペダルを踏みこむ足にもぐっと力が入ります。


「ノー! タバコは持ってない! どっかいけ!」


 大声で怒鳴り返します。膠着状態は一分ほど続いたでしょうか。男はふらふらとゾンビのような動きでゆっくりとボンネットから降りていきました。しかし、正面にいるのですぐに車を発進させることができません。


「ああぁーーー!!」


 唐突に雄たけびをあげると、なにを思ったかハンバーガーのメニューが記載されている電光パネルに体当たりを喰らわせます。そのままパネルへとパンチを繰り出すこと2、3発。満足したのか、男はそのまま全速力で走り去っていきました。


 嵐のようなできごとは去り、あたりはふたたび静寂に包まれます。


 監視カメラがついているはず。店員もきっと今のできごとを見ていたに違いありません。ウィンドウを開けて、あらためて店員とコンタクトを試みます。


「……お客さん、大丈夫だった?」


「……はい。なんとか」


「で、ご注文は?」


「…………ベーコンチーズバーガーのセット下さい」


 普通にハンバーガー買って帰りました。

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