第18話 呪いのゲームソフト-2 シャッター商店街
シャッター商店街。
文字通り右も左もその奥も、見渡すかぎりシャッターしかない商店街である。
高度経済成長・バブルの流れに乗って作られ、当時はそれはもう賑わいに賑わった。
人で溢れ、街は活気だっていた。
しかし栄枯盛衰とはよく言ったもので、栄えたものは必ず衰える。
当時は流行最先端であったとしても、数年経てばそれはもう過去となる。
大型ショッピングセンターやディスカウントストア、コンビニなんかもあるだろう。
それらが周囲に建つことにより、人々はみなそちらに流れた。
百貨店や個人商店なんかよりずいぶん安かったり便利だったり、そちらへ人が行くのは当然の流れであった。
“ナウい”はその言葉自体が“ダサい”となった。
商店街は時代に取り残され、商店を開いていた当事者さえも徐々にそこから離れていった。
商店としての機能ができなくなり、次々とシャッターを下ろした結果が、今のこの惨状だ。
かといってアーケード自体を取り壊すのは工事費もバカにならない。
だから商店街としてその存在意義が“終わった”あとでさえも、そこに在り続けている。
機能不全の商店街。
かつて栄華を極めていた商店街の“抜けがら”である。
「こんなこと言うのもアレですけど……不気味ですね」
樹はその空間に漂う雰囲気に対し、後ずさるがごとく引きつっていた。
そのシャッター商店街に感じた第一印象は“ゴーストタウン”である。
上を仰ぎ見ると、雨よけの天井が見えた。
全体的にサビがひどく、一部にいたっては穴が空きベニヤ板が剥がれかけている。
台風など自然災害による影響か、はたまた老朽化により勝手に自壊したのか。
どちらにしろ修繕されていない・される気配すらない様子に、この商店街の“どうしようもなさ”を樹は感じとっていた。
「なぁすげえだろ」
「なにがすげえんですか」
「八割九割がた、空き家なんだぜ。“廃墟”の進化形お化け屋敷、ってかんじがするだろ?」
「廃墟に進化形もくそもありませんよ。……っていうか一割ぐらいは人が住んでるんでしょ。あまり失礼なことは言わんとってくださいユリ先輩」
樹は人差し指を突きたて、自分の口元に当てる。
ユリをたしなめる形で、声のトーンを下げるようジェスチャーをした。
「わるいわるい。でもなんかさ。独特の雰囲気はあるよな、ここ」
さすがに反省したユリは軽く詫びると、ヒソヒソ声で話しかける。
「まぁそれは……わからなくもないですが。でも……」
なにか違う――樹はそう思った。
不思議な魅力もあるにはある。
しかし樹の憧れる未知なるもの――“完璧な不完全”とはまた違うものだ。
“終焉”あるいは“それへと向かう虚ろの世界”、そんな空間。
しかし完全に人が住んでいない“廃墟”とも違う。
数少なくとも人が住んでいるという事実が、よりいっそう虚しさを増していた。
「とりあえずそれはそれとして……ここに本当にあるんですの?」
沈黙していた未來がそこで初めて口を開く。
「ん?」
「“ん?”じゃねーですのよユリ」
未來は少々ムッとして、その眉間にシワを寄せた。
“ふう”と一息つき、ユリの顔を覗きこむ。
「当初の目的忘れたのかしら。電車乗り継いで隣町まで来て、寂れた商店街を眺めるだけってわけじゃないでしょう?」
「そりゃもちろんさ。ここまで来たのはゲームを――“掘り出しゲームを買うため”だからな!」
「けれど、あたり一面シャッターだらけで、開いてるお店が見受けられないけれども」
「そ・こ・が、あるんだなぁ!」
ユリはそう言うと、二人を先導するようにして商店街のなかを歩きはじめた。
歩きつつ二人に話しかける。
「私も最初はこんなところにゲーム屋があるなんて予想もしてなかったんだよ」
「まぁそうでしょうね」
「休みの日に何の気なしに電車乗ってたら寝過ごしちゃってさー。折り返しの電車まで時間があるしどうせなら観光するか、ってことでこの商店街に来たんだよね」
「……ちょっと待ちなさいユリ。その“休みの日”って大遅刻してきた“私との買い物の日”じゃないでしょうね?」
「それで商店街歩いてたらさー、これまた何の気なしにそこの路地のカドを曲がったんだよ」
「ちょっと」
「ほら着いた! ここだよここ“レトロゲーム屋”!」
「ユリぃ!」
「未來先輩、もう諦めましょう。ユリ先輩はああなるともう耳にフタしちゃいますから」
珍しく顔を紅くしている未來に、目的のゲーム屋を目の前にしてキラキラと目を輝かせるユリ。
樹は二人について行くようにして件のゲーム屋へと足を踏み入れる。
ハーレム怪奇譚~ボーイッシュ娘、カラテお嬢様、霊もぜんいん攻略対象~ @mahara
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