冬に咲く心の花
宵闇(ヨイヤミ)
第1話
12月中旬、外には雪が薄っすらと積もっていて道が少し滑りやすくなっている。
本当なら外には出掛けたくない。しかし、今日は真人先輩と買い物に行くという大切な約束があるので、出掛けることにした。
プルルルルル♪
携帯の着信音が鳴る。
「誰からだろう?」
携帯の画面を見てみると、電話は真人先輩からだった。前はなかったのだが、最近突然電話してくることがよくある。その度に理由を聞くのだが"特に理由はない"と言われる。
少し勝手だと思えるような先輩だが、私は何故かそんな先輩が好きだ。
「もしもし?」
『冬月、おはよう!』
先輩の声は今日も明るく、私は鼓動が少し高鳴った。
「真人先輩、元気ですね」
『いつものことだろう?』
「確かにそうですね。それで、急に電話なんて何かあったんですか?」
『いや、してみただけだよ』
「そうですか」
『もしかして迷惑だった?』
「いえ、そんなことないですよ」
『そっか。そろそろ着きそう?』
「まだ家です。場所が家から近いので」
『そうなんだ。着いたら連絡してね』
「はい、分かりました」
『それじゃあ』
真人先輩はそう言うと、プツリと電話を切った。先輩が集合場所に着いているかは知らないが、そろそろ家を出る時間だったので…
「そろそろ集合場所へ向かおう」
私はそう自分の部屋で呟いて家を出た。
集合場所に着き、先輩にメールで着いたことを知らせた。すると、すぐに先輩がこちらへと走ってきた。
「おはよう、冬月!あと少しで着くって時に連絡きたからさ、走ってきちゃった」
「あ、そうだったんですか。あと、さっきも電話で『おはよう』って言われましたけど」
「いいじゃないか」
そう言って真人先輩は少し笑った。
先輩のその笑顔を見ていると、もう心拍数が上がりその音が先輩に聞こえていないかが心配になる。
「それじゃあ、行こうか」
「はい」
そう言って私は頷き、先輩と商店街の方へと歩いて行った。
買い物とはいっても、真人先輩が色々な人にクリスマスプレゼントを買うと言うので、私はその付き添いのような感じで連れて来られた。
おもちゃ屋に雑貨屋、手芸屋に本屋、いくつかのお店を回り沢山のクリスマスプレゼントを買った私たちはそろそろ帰る雰囲気になってきていた。
「なぁ、冬月」
「なんですか?」
「今、欲しいものってあるの?」
真人先輩からの急な質問に、私は少し驚いた。
「そうですね……マフラーですかね」
「色は?」
「出来れば青系のやつがいいですけど…なんでこんなこと聞くんですか?」
「……!なんでもいいでしょ。それより、今のを聞いて1つ買い忘れを思い出したんだけど、すぐそこの雑貨屋に行ってもいいかな?」
「別にいいですけど」
「じゃあ、行こう」
真人先輩が急に欲しいものを聞いてきたことに1人で驚いていると、真人先輩にいきなり手を握られ、私は真人先輩に手を引かれ雑貨屋へと向かった。
雑貨屋は意外と近くにあった。
店内には色々なものがあり、どれも綺麗で他の店とはまた違っていた。
店の少し奥、冬物が置いてあるところで真人先輩は何かを探していた。私は真人先輩が何を探しているのか気になり、その姿を見ていた。すると、真人先輩が急にこちらを見て笑ってみせるので、私はその笑顔を見てすぐに目を逸らしてしまった。
私が店内を見て回っている間に真人先輩は何かを買っていた。
「おまたせ」
「何を買ったんですか?」
「内緒だよ」
真人先輩は照れくさそうにそう言うと、私から少しだけ目を逸らした。
日も暮れて辺りは暗くなり、木々のイルミネーションが辺りを照らしていた。
「なぁ、冬月」
「なんですか?」
「お前、今好きなやつとかいるの?」
恋愛に興味がないといつも言っている真人先輩が急にそんな事を聞いてくるので、私は自分の気持ちを知られたくなくて嘘をついた。
「居ませんよ。急にどうしたんですか?」
「いや、ただ気になっただけ……だよ」
「……?そうですか」
その時の真人先輩は、何故か恥ずかしそうにしていた。それに、顔が赤くなっているようにも見えた。
「も、もしもさ…!俺が冬月のこと好きだって言ったら……冬月はどう思う?」
私は先輩から『好き』という言葉が出てきたことに驚き、それと同時に胸が締め付けられた。
「え…真人先輩って恋愛に興味なかったんじゃないですか?」
「な、ないよ!もちろん、恋なんてそんなもの必要ない!」
「じゃあなんで聞くんですか?」
「そ、それは……ふ、冬月のことが好きだからに決まってるだろ!」
「……え?恋に興味ないんですよね?」
「あぁ、全くない!」
「なのに恋したんですか?矛盾してませんか?」
「確かに矛盾してる!でも、好きだから仕方ないだろ!」
「……はぁ、こんな奇跡ってあるんですね」
「は?どういうことだよ…」
「私、前から真人先輩のこと好きだったんです。でも、恋に興味がないって先輩はずっと言ってるし、私みたいな静かそうな人なんてってずっと思ってたんです…」
「え、じゃあもしかして部活とかでなかなか目を合わせてくれなかった理由って……」
イルミネーションで照らされた真人先輩の顔はとても赤く、見ているこちらまで恥ずかしくなるほどだった。
「冬月…!」
「はい」
「えっと……お、俺と付き合ってくれないか!」
「…!もちろんです、真人先輩」
「冬月………」
真人先輩は緊張が解けて力が抜けてしまったかのように、その場に座り込んでしまった。
先輩の顔はとても赤かったが、とても嬉しそうで今にも泣きそうな目をして笑っていた。
「あ!そうだ、冬月!これ!」
先輩は急に茶色の紙袋を私に渡してきた。その袋は、ついさっき先輩と行った雑貨屋のものだった。
「なんですか?この袋」
「開けてみてよ」
袋を開けると、そこには綺麗な青色で所々に金色があるマフラーが入っていた。まるで満天の星空のようなそのマフラーはとても美しく、袋の中に少し入ってくる光が当たりより一層美しく見えた。
「…先輩、これ……」
「さっき寄った雑貨屋で買ったんだ。青系のマフラー…だろ?どう、気に入った?」
「はい…とっても綺麗です……!本当にありがとうございます」
さっきは真人先輩が泣きそうな顔だったのに、次は私が泣きそうになってしまった。
帰り道、もうすっかり暗くなってしまったので、家まで先輩が送ってくれることになった。
「俺、今ホッとしてるんだ」
「なんでですか?」
「だってさ、振られると思ってたから」
「え?」
「冬月は、静かでしっかり者で…俺みたいなうるさい奴は好きじゃないと思ってたからさ?さっき、勇気出して言って良かったなぁって」
「確かに私はうるさいのはあまり好きじゃないです。でも、真人先輩のことは嫌いだと不思議と思わなかったんです。先輩の声が聞こえると何故か安心して、聞こえないと不安になる…こんな思いをしたのは初めてでした」
すると先輩は驚いた顔をしたかと思えば、嬉しそうに笑いながらこちらを見ていた。
「冬月、改めてこれからよろしくな」
「はい、こちらこそよろしくお願いしますね」
いつの間にか雪が降り始めた帰り道を私たちは、2人で笑いながら歩いた。
その冬、私たちの心の中には2人だけの温かい一輪花が咲いた。
冬に咲く心の花 宵闇(ヨイヤミ) @zero1121
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