第3話 手術

私の四十四年の人生中で、おなかを開いたのは、四回です。

見事な四並び。

最初は子宮筋腫の摘出。これは全身麻酔でした。

残りは帝王切開。こっちは局所麻酔ですね。


体質なのか、私は麻酔と相性が悪いです。

半端なく悪いです。


一回目の手術のときは、気管内挿管の管を抜かれた記憶があります。凄く苦しかった。そして、術後すぐの説明もバッチリ覚えてます。術後性健忘で忘れちゃうと思うけど、と前おきされたうえで摘出された筋腫を見せてもらったんですが、その記憶もなくなりませんでした。

意識が戻ったのを確認してから、気管内挿菅は抜くらしいです。ただ、普通はその記憶はなくなってしまうとか。麻酔の作用らしいんですけど。

でも、なぜ私は覚えていたのか?

つまり、効きが悪かったわけです。最悪だったのは、術後の痛み止めとして背中から入れるキシロカイン(硬膜外麻酔)が、効かなかったことです。

ジンワリとは効くけど、すぐきれるんです。

二時間くらいすると、点滴の針すら痛くなり、最終的に背中に刺した針のところが痛くなる。そうなってくるとおなかは激痛です。その状態で、一時間とか二時間とか我慢するんです。次にキシロカインが入れられるようになるまで。

あまりに痛く、看護婦さんに痛いと訴えながら涙が溢れてくる始末。硬膜外麻酔をやめて、飲み薬の痛み止めになったほうが、よっぽど痛みはなかったです。

麻酔とは違いますが、いや、やはり麻酔が効いてなかったから覚えているのか、術中に足裏が凄く痛かったんです。多分、つっていたかと。空気で圧迫する道具を術中足につけるんですが、それの位置が悪かったのかもしれません。術後、足がつけないくらい痛かったです。なぜか、手術中であるはずのその記憶もあります。


そんな一回目の手術を経験した二年後、長男の帝王切開が決まりました。

手術は局所麻酔でしたし、術中の麻酔はよく効いていたので、赤ちゃんが取り出されるとき、台が揺れるほどおなかを押されましたが、痛みなどはなく、凄い力がいるんだなと感心していたくらいでした。ただ、赤ちゃんを取り出した後の処置のとき、なぜか凄い胃痛を感じたんです。もとから胃は弱いほうでしたが、我慢出来ないくらいの痛みでした。

術後、やはり硬膜外麻酔は効きませんでした。

でも、看護婦さんが覚えていてくれていたのか、医師に効かないことをすぐに伝えてくれ、点滴から強めの痛み止めを入れてくれました。ロレツが怪しくなるくらいだったので、どれだけ強いものだったんでしょう。

また、退院してからのことですが、左足だけ力が入らないことがあり、赤ん坊抱いて転びそうになったことが数回ありました。足が痺れきったときみたいな感じです。麻痺?みたいなものでしょうか?

毎回ではなく、一週間に数回、一ヶ月くらいで治りましたが。

もしかしたら、硬膜外麻酔や腰椎麻酔のときに、神経に触れて傷ついていたのかもしれません。


三回目の手術は、さらにその一年九ヶ月後、次男の帝王切開でした。

このときは、前回や前々回の教訓を生かし、硬膜外麻酔が効かないことを術前に訴えました。

手術室へ行き、背中に麻酔打ちますと言われ、背中を丸くしたとき、かなりの激痛が!

思わず動いてしまい、再度麻酔を打たれた感覚があり、動いたからやり直ししたんだとその時は思いましたが、多分これは二回目の腰椎麻酔だったかもしれません。

手術が開始され、メスがおなかにあてられたとき、メスが当たっている感触を感じました。

ヤバイ!

まだ効いてない!


「あの、メスで切っているのがわかるんですが…。」


私が言うと、


「大丈夫、麻酔が効いてなかったら、痛くて切れないから。」


と麻酔医。

いやいやいや、効いてないとは言ってないんです。効きが悪いんです。もしくは効きが遅いんです。

おなかをかきまわされている感覚もあり、叫ぶような激痛ではないにしろ、息が荒くなるくらい痛かったです。

赤ん坊がでてきたくらいから、やっと麻酔が効いてきて、感覚もなくなりました。

前回も切っているので、あまりに術中の感じの違いから、腰椎麻酔が効いていなかったのだなと推測できました。

術後の硬膜外麻酔は、信じられないくらい効きました。一日は身動きとれないくらいの激痛なんですが、それでも前よりは効いているのがわかりました。

また、前はあまりの痛みで立てなくて、なかなか歩くことができずに、導尿の管がなかなか取れなかったのが、今回は一日くらい早く抜けたんです。

ただ、抜いた後がおかしなことに。

点滴打っているのに、トイレに行きたくならないんです。しばらくしていると、足の付け根が痺れてき

ました。なにか変だと思いトイレに行くと、お漏らし状態になってました。大きな術後用パッドをつけていたので、寝巻きは汚れませんでしたが。

看護婦さんを慌てて呼び、再度導尿してもらうと、凄い量の尿が出てきました。

硬膜外麻酔、効きすぎて、尿意を感じる神経すらブロックしてしまっていたらしいんです。

経口の痛み止めが効くのを知っていた私は、硬膜外麻酔を取ってくれとお願いし、外れた途端、尿意も復活しました。


そして、最後の手術はつい二年前です。

今回は、今までの経験をフル稼働し、こと細かくお願いしました。

なので、痛みはやはり強く、硬膜外麻酔は効きにくかったように思われますが、一番最近のことにも関わらず、あまり記憶に残ってないです。

前回は、麻酔を打つときに、私が動いてしまったのが原因のように思われたので、麻酔を打つ前に看護婦さんにお願いして、押さえてもらったのが良かったのかも。

一番覚えているのは、赤ん坊を出すときに、医師がおなかにのらんばかりの勢いで押されて、それが苦しかったことくらいです。でも、台が揺れるほど押された長男のときは苦しくもなかったので、こっちはもしかすると腰椎麻酔が効き過ぎていたのか?


四回おなかを切りましたが、毎回麻酔の感じに違いがあり、どれが正しく効いたものかわかりません。毎回なにかしらあったし、かなり痛い思いをしました。

それでもやはり、子供が欲しいと思うのだから、忘れっぽいんですかね?


年齢的にも、回数的にも、妊娠や帝王切開はもう無理と言われたので、第四子はあり得ないのですが、まだ大丈夫と言われたら、またチャレンジしていたかも…。







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