第三話 HAL
「――
「はいっ」
「弾幕張ってヘイト稼ぐから、俺から一定距離維持で」
「はい、お願いしますっ」
「今日こそゲーゼル落ちろ落ちろ……って言ってると物欲センサーがなぁ」
ため息交じりに呟きながら、ビームエッジを《旧キオル軍残党勢力・斥候型》という名のMobトラバースに突き立てる西郷。
頭部を焼き貫き、そのまま股関節まで斬り下ろして撃破する。
その日、西郷はフレンドと共にMob狩りに出かけていた。
場所は惑星エトラーシ、軍事産業が盛んな発展と荒廃の惑星だ。
その中でも人気の狩場である旧キオル軍残党ベースキャンプに二人はいた。
乾燥し荒れ果てた不毛の荒野、そこに設置された軍事基地を彼らは進む。
西郷はビームライフルと背部ミサイルポッドによる射撃攻撃を中距離でバラまきつつ、弾幕をかいくぐってきた敵機を左手のビームエッジで撃破していく。
その背後を一定の間隔を保ちながら僚機ハル機が追従する。
「武器庫寄ろう、ハルさんも目ぼしいのあったら拾ってね」
「了解です!」
Mobを制圧しながら前進すると、武器庫に到着する。
インターステラのエネミースポットの中には、こうしてプレイヤーも活用できる倉庫が点在する場合があり、そこで弾薬の補給や使い捨てのインスタントウェポンを装備できるのだ。
各種弾薬を補給し、インスタントウェポンを拝借する西郷。
ちらとハル機をうかがうと、なぜか両腕にパイル・バンカーを装着していた。
「ハルさん、パイル二本はバランスが……」
「パ、パイルはロマンなんです!」
「あー……そ、そうだねロマンって大事だよね!」
「です!」
HALというプレイヤーはまったくの戦闘オンチだった。
エイムは論外、近接戦は言わずもがな。
戦闘の定石・常識に従わない。
本来の民種がトラバースの設計構築を主とする設計民であることを差し引いても、その木っ端ぶりは全一を名乗れるほど悲惨だ。
西郷もそれを誰より理解しているため、極力ハルに敵が寄らないよう立ち回りを徹底しているし、たとえハルがゲームオンチでも「正解」を押し付ける真似もしない。
それもすべては「ゲームを楽しんでもらいたい」という想いゆえ。
「ハルさんは楽しそうにゲームするから、見ててなごむよ」
「そんなそんな、私なんて毎回、アットさんの後ついてってるだけなのに……」
二人がゲームで知り合ったのは三か月ほど前になる。
ハルがゲーム内で公開した自作構築レシピをきっかけに交流を持つようになり、以降狩りやイベントでよくパーティーを組む仲となったのだ。
ただしリアルの素性などは明かしておらず、二人の関係はインターステラの中だけで完結していた。
「ほんとに私どんくさいし、お役にも立てないし……」
「そんな気負わなくても。ゲームなんだからさ」
しかし、ハル自身は西郷に頼りきりな現状に納得していないようだった。
「私も、いつか……」
「おっと、準備できたら進もうか。誰かにもってかれたら損だしね」
「あ、はい!」
「方針は変更なく。俺が堕ちるときは合図出すから、離脱しちゃって!」
「わかりました……!」
武器庫を出て、二人はMobの群れへ突入する。
西郷は先刻装備した《[IW]ガトリング・キャノン》を掃射。
着弾点を中心に爆発が発生するため敵が一掃されていく。
インスタントウェポンはトラバース一機に二つまで装備可能だ。
使い捨て・弾薬補充不可という制限はあるもののそのどれも優秀な性能を誇る。
西郷はこの時、先述のガトリング・キャノンの他に《[IW]アサルト・ドローン》を取得していた。
展開された二機一組の自走砲ドローンは簡単な命令を受けたのち、自動で敵を排除していく。
進軍する彼らはやがて、今までと装いの異なる群れと遭遇する。
群れの中央のトラバースは明らかに装備の質がいい。
これが俗にエース個体やネームドと呼ばれるエネミーだ。
エース個体は他より強力な武装・AIを搭載しており、たかがMobと侮ると撃墜される程度には脅威だ。
しかしこういったエネミーはレアリティーの高いパーツやアイテムをドロップしやすいため、狩場の華といえる。
「よしエース、それも《将軍》だ!」
《将軍》とは《旧キオル軍残党勢力・望郷の将軍》を指す。
ここのエネミーの外見的特徴として、左右非対称かつツギハギな武装構築というものが挙げられる。
これは旧キオル軍が祖国に追放され、軍用トラバースを現地で修理・改修したという設定が反映されてのものだ。
しかし将軍はそれに当てはまらず、完全な状態が維持された機体のようだ。
赤褐色を基調とする、厚い装甲に覆われたボディ、背部から覗く二門の砲身。
ツインバレルのライフル、傷一つないシールドに刻まれるはかつて仕えた国の紋章。
それを守護するトラバースも精鋭ということなのか、ただのMobより見栄えが良い。
「取り巻きに狙われないよう頑張って!」
「はい!」
ドローンを左右に展開し、三機一斉に砲火を上げる。
「おっしゃゲーゼル置いてけぇ!」
ゲーゼルとは《ゲーゼルブースター》の略称で、バザーで一千万を割ったことがないレアパーツだ。
二人がこの狩場に通っているのも、ひとえにこのパーツ目当てだ。
インスタント・ウェポンの性能のおかげで、取り巻きの半分は開幕間もなく撃破される。
だが損害は西郷側にも発生する。
被弾するエネミーの背後からほとばしる砲声、迫る砲弾。
将軍の射撃によりドローンが全機破壊されてしまう。
「アットさん!」
「大丈夫……!」
爆煙の向こうを見れば、屹立する将軍とそれを守護する防御特化のトラバースたち。
護衛隊らしきそれらは一様に堅固なシールドを並べて構え、彼らの長を侵入者の攻撃から守っていた。
「固いな、毎回」
歯噛みする西郷。
せめて一機でもドローンが残っていれば楽に狩れたのに、と思わずにはいられない。
だが悪いことばかりでもない。
初期の攻撃で敵の攻撃機は将軍を残してすべて堕とせた。
(これで後方のハルさんが被弾するリスクははるかに下がる)
あとは、西郷がこの砦を崩せるか次第だ。
二門の砲塔とライフルの射撃圧をかわしながら、敵の背後へ回り込む軌道をとる。
それで裏をとれれば楽だが、西郷機の動きに反応して護衛隊の隊列が将軍を囲むように半円型に変化し、防御角度を広げる。
左右へ揺さぶりをかけてみるも効果は薄い。
彼我戦力を考慮し、西郷が選んだ作戦はシンプルだった。
「堕ちるかもしれないけど正面突破しかない。ハルさん、合図を出したらパイルをパージしてこのポイントに投げて!」
「はい!」
持ちうる武装をフル回転させてかなう限りの圧力を加える西郷。
Mob狩り用に高火力仕様で構築された西郷機の攻撃は苛烈で、将軍及び護衛隊の耐久をガリガリ削っていく。
やがて取り巻きの数が半分まで削れるとガトリング・キャノンの残弾が尽き、強制的にパージされる。
残る武装で牽制しつつ、西郷は腰部に取り付けたファダル式爆雷投射機を敵機上空に射出する。
ファダル式爆雷投射機の外見はパンツァーファウストとよく似ているが、中身は別物だ。
発射されると弾頭部分が空中で傘を張り、短時間浮遊。
そして弾頭部から爆雷投射による対地攻撃を敢行する。
真上から叩かれた敵の陣形に乱れが生じる。
「ハルさん、今!」
態勢が崩れたところに、前傾姿勢でブーストを吹かし、最大限の弾幕を張りながら突撃する西郷。
それを迎撃せんといち早く復帰した将軍がツインバレルライフルを連射する。
左腕に据え付けられたシールドで自機をかばいつつ、西郷はそのままの勢いで体当たりを食らわす。
護衛隊を置き去りに将軍が吹き飛ぶ。
西郷はハルの投げたパイル・バンカーを拾って装備、右腕部のジョイントに装着。
弾薬が尽きてデッドウェイトと化した背部ミサイルポッドはパージする。
(護衛隊を崩すために大半の武装は使い切った)
(ここからは、白兵戦で決着をつけるしかない)
西郷機が近接距離に近づくと、将軍はシールドを構える。
シールドからは内蔵ブレードが露出し、高周波ブレード特有の甲高い振動音が発せられる。
対する西郷は左手にビームエッジを握る。
一足一刀の間合い。
先手を取ったのは将軍だった。
シールドブレードの刺突で急所たるコアドライブ部分を狙ってくる。
西郷はホバーを活かした足さばきでそれをかわし、シールドから遠い敵機右側より袈裟斬り。
しかし将軍、それを無理やり防御。
将軍は姿勢が崩れつつもシールドでビームエッジを押しのけ、唐竹割りを繰り出す。
だがこれを西郷は見切り、最小限の動作でかわすと同時に将軍の懐へもぐりこむ。
コアドライブが内蔵されている腹部へパイル・バンカーをあてがう。
「抜け――!」
打ち出されるパイル・バンカー。
装甲を砕きながら杭は機体を貫通し、背中まで突き出る。
コアを破壊された将軍は機能を停止。
動かぬ鉄塊と化して地に倒れ伏す。
戦いを制した西郷は、残りの護衛隊へパイルを向ける。
「それじゃ、残りも片付けよう」
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