第7話 助けてくれたのは、誰?

ゆっくりと、『あたし』は目を開いた。

初めに見えたのは、宙に揺らめく蝋燭ろうそくの灯火。ゆらゆらと動くそれは、なぜかとても弱くて儚い花のように見えた。

それから、木でできた天井の木目。ところどころに、シミのような黒ずみみたいところがある。

モゾモゾと動けば、身体の上にかかっている布団が、布が擦れたような音をたてた。少し固めではあるけど、ほのかにじんわりとそれは暖かく感じる。


(…どこだろう)

身体を起き上がらせると、今起きたばかりだからか、少し目眩を感じた。じっと動かずにいたらすぐに直ったので、ただの寝過ぎなのだろう。

いつからいつまで寝ていたのか、自分では分からない。ただ、かなりの時間は過ぎていると思えた。一体、『あたし』が眠っている間に、周りでは何があったのか―――。

一人悶々と考え込んでいると。



がらりと引き戸が開いて、一人の青年が入ってきた。腕に水の入った桶を抱え持ち、片方の手で引き戸を閉めている。着ている藍色の着物袖は、白い紐のようなもので二の腕までたくしあげられていた。ちなみに、微妙にはだけているので、中の薄着が見えてしまっていたりする。

青年は腕に抱えている桶を持ち直すと、ようやくこちらに気付いた。

そして、

「…っやっと目ぇ覚ましたかっ!」

と小走りしながらこちらに来た。彼の白い髪が、ふわりと風になびいた。

近くに来ると、青年は桶を枕近くにある小さな机の上に置いた。それから、椅子に音をたてながら座った。

いきなり現れた青年に、『あたし』は警戒と戸惑いを隠しきれずにいた。

たぶん『あたし』は、この人に助けられたんだと思う。そうじゃなきゃ、今頃外で獣に襲われてるだろうし、こんなところにいるはずもないだろうし。

しかし、一体彼は誰なのか?そして、ここはどこなのか?

聞きたいことが多かった。


それが顔に出てたのか、

「…ブフッ。」

青年が噴き出して笑った。

それが、なぜか馬鹿にされているようで気にくわなくて。

イライラとしていると、青年は笑いすぎて出てきた涙を拭きながら、

「す、すまんすまん。あんた、顔に表情出やすいんだな。」

とまだ少し笑いながら言った。

そうだろうか・・・と、自分に自問自答して、ふと懐かしい気持ちになった。

上手く言葉に出来ないが、何故かこのやりとりがような・・・そんな気がしたのだ。

(…前にここに、来たことがある…?)

新たな謎が出てきた。しかし、まだなにもわからなかった。




「…そんで?なんでまたこんなとこにいたんだよ。ここ、『黒狼こくろうの樹海』つって迷いやすいんだぞ。」

―――ようやくここで、青年が質問してきた。しかしその表情は、さっきの笑顔ではなく、無表情で・・・しかも、こちらを疑っているようだった。

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