第6話

そんな家が、嫌で嫌で仕方がなくて。何度も何度も、この家を出ていきたいと強く願ったものだ。

・・・そして、その度に『あたし』だけでは何も出来ないと・・・無力だと、そう気付いてしまう。




(…まって。これって…っ)

ここでようやく―――遅いと言えば遅いかもしれないのだが―――今起きていることが夢で・・・そして実際に、これまで起きていたことであったのに気付いた。

先程見た教室の出来事も、伯父や叔母に起こられている出来事も、すべて・・・すべて。

―――『だった。



―――なぜ、今になって思い出すことになったのか。

なぜ、今まで思い出さなかったのか。

疑問が頭のなかを埋め尽くした。疑問で頭が埋め尽くされて真っ白になるまで、たくさん。

けれど、どうしてなのか・・・なにも、分からない。知らないことが、分からないことが今の『あたし』には・・・とても、怖くて。なにも分からないから、どうするか考えて焦ってしまって。

どんどんと胸のうちが、真っ黒に―――色を塗るように染まっていった。

同時に周りの景色も―――夢の中だからこそ、といえるかも知れない―――少しずつ色を変えていった。鮮やかな色が光を失うように、どんどんとモノクロになっていった。

そして・・・周りの景色は、完全に黒く暗い闇に覆われた。




・・・その時。

周りが黒く暗くなったその場所に、全方向から六つの光が現れた。その光は様々な色をしていて、キラキラと星のように輝いていた。

ある光は、燃えるように赤く輝いていて、その隣では、優しく吹く風のように放っている光がある。

また、明るく太陽のような眩しい光もあれば、深い海のような穏やかな光もあった。

そして・・・全てを包み込むような暖かな光の隣には、不安を消し去るような安心感を与える光があった。

その六つの光は、全方向からこちらに向かって飛んできた。そして近くに来ると、くるくると円を描きながら、頭上からゆっくりと足元まで動いた。

六つの光が作る円は、潜り抜けると穏やかな気持ちになった。それどころか、〝大丈夫〟となぜかやる気に満ちた気持ちにもなった。


(…まだ、なにも分からない)

不安はある。しかし、諦めたり焦ったりすることはないと、そう思えるようになった。

どこか、余裕ができてきたような気がする。不安を感じていたぶんが消えて、次に〝どうするか〟を考えられそうな、そんな気がした。




・・・そして。ようやっと、夢という名の記憶巡りは終わりを告げた。周りの景色が、下から色を変えていったからだ。

同時に、深く落ちていた意識はどんどん浮上していき、『あたし』は白い光に包まれた。

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