act.26 仕組まれた社長戦争とフィーレ姫の謎

 フィーレ姫と旭の戦いが終わり、姫がむくれているその現場へネーゼが現れた。突然テレポートで移動してきたのだ。

「旭さん、ララの為に戦って頂いてありがとうございます」

「いえいえ。僕も自分の義務を果たしているだけですから礼には及びません」

「それと、フィーレ姫。ララの姉、ネーゼと申します。脚が不自由ですのにこんな異世界へ召喚されて戦うなんてお気の毒です」

「同情は結構です。リラ師匠がこちらに来て戦っている以上、一番弟子が馳せ参じるのは当然です」

「それは結構。ですが、何故別の陣営に召喚されたのですか?」

「それは分かりません」

「そこのグスタフさんも別陣営ですわね」

「確かに」

「それはあなた達を戦争の道具として召喚しているのでしょうね。しかも、優秀であるが故別陣営に配置する。戦いを盛り上げる為に。涙で語られる師弟対決ですからいいドラマになりますわ」

「そんな事は聞いていません」

「話せば承諾されないと思いますわ」

「そうです……ね」

「リラ師匠とララさんが先に対戦してしまったおかげで、観戦者の方たちは大層落胆していることでしょう」

「それは本当ですか?」

「さあ。状況証拠だけですわ。貴方のお師匠さまも、本来このような戦いに参加される方ではないでしょう」

「それは……そうですね。この社長戦争は権利の奪い合い、泥試合と化した内戦そのものです。ベルグリーズと無関係の一陣営に加担するなど、本来なら考えられません」

「そうだね。僕はお師匠さまとララさんが戦っているのを感知して咄嗟に駆け付けたんだけど、ララさんたちは奪われた兵器を取り戻すために、そして人質を助るために来ているんだ。本当なら、お師匠様はララさんに味方するはずなんだ」

「まさかリラ師匠が何かされていると……」

 ネーゼは微笑みながら頷く。

「詳細は分かりかねますが、魅了の魔法か洗脳されたのか、何らかの方法で支配されている可能性は否定できません。それよりも先にフィーレ姫、貴方のお体の事が心配なのです」

「私の体の事ですか? む、胸のサイズの事でしたら気にされなくて結構ですけど」

「あら、そうじゃなくてよ。サイボーグ化の事です」

「右脚の事でしたら結構です。動くようになりましたのでこれは重宝しております」

「右脚だけですか? あなたは生来不自由なのでしょう? そのような方が右脚だけのサイボーグ化であのような運動機能が発揮できるとでも?」

「それは……そうですね。確かに、こんなに体を動かしたことなどありませんでした。いつもは魔術で対応していましたし……」

「えーっと、どういう事でしょうか?」

「左脚に障害は無くても、専門に鍛えなければその能力は健常者に劣るものなのです。右脚だけサイボーグ化したからといって、訓練もなく健常者以上に走れる事はありません」

「グスタフの腕を100kg抱えられる義手に交換しても、足や腰がそのままだと100kgの重量には耐えられないだろ」

 ララの突っ込みに頷くグスタフだった。

「私の体はどうなってしまったのでしょうか?」

「それは調査しなければいけないわね。そのソリティア陣営の本拠地へ出向いて」

 ネーゼの言葉に頷くフィーレ姫とグスタフだった。

 その時、空から黄金の巨大な光球が下りてきて実体化した。その姿はいかにも重装甲といったごついもので、白色に黄金のレリーフが刻まれた荘厳なものであった。

「フィーレ姫。騙されてはなりませぬ。さあ、この危険な場所から撤退しますぞ」

「嫌よ。この戦いが奇妙なのは理解したわ。私はこの方たちと共にこの戦いの謎を解き、お師匠様を元の聡明な方へと戻します」

 その男はシュナイゼル・ヘルト。白い機体はランディスという。鉄壁の防御を誇るという堅牢な機体。フィーネ姫の護衛役だという。

「騙されてはなりません。姫様。さあ、ソリティア様の元へとお戻りになりませんと約束を違えることとなりますぞ」

「嫌ですシュナイゼル・ヘルト。いくらあなたの進言でも聞き入れることはできません」

「これ以上の我儘はご遠慮ください」

 その時ララの飛び蹴りがランディスの額にヒットする。ランディスは後方にグラつきそのまま数メートル後退してしまった。

「うるさい奴だな。今から私と戦うか?」

「私は姫を守らねばならぬ。ここは戦うべき時ではない。一旦引きますぞ。姫様、必ずお助けいたします」


 そう言い放ちランディスは飛翔して消えた。


「あれは何だったんだ?」

「さあなんでしょう」

 ララの質問に笑って答えるネーゼだった。知っているのに隠している雰囲気があるのだが、ララにはそれが聞き出せない。

「では、みさなんは王城を時計回りに迂回してソリティア陣営の拠点である工場地帯へと向かってください。そうそう、グスタフ君はアズラの修理をしますから私と一緒についてきてくださいね」

「はいわかりました」

 グスタフの視線はネーゼの胸元に釘付けになっている。

(お師匠さまよりずっと大きい……)

「あのー、ネーゼ様。クスタフをよろしくお願いします。邪な誘惑からちゃんとお守りください」

「大丈夫です。分かっていますよ。さあグスタフ君、後でお姉さんと一緒にお風呂へ入りましょうね」

「うん」

 真っ赤になって頷くグスタフだった。

 アズラとネーゼとグスタフは白い光に包まれて消えてしまった。


「ネーゼ様、全然わかっていない!!」


 しつこく地団駄を踏むフィーレ姫であった。


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