act.8 草原の羽毛玉とvsヒナ

 草原の小道を元気に歩いているララとソフィアだった。

 ララはあの有名なアニメのOP曲を歌っている。


「♪歩〇こう、〇こう、私は〇気~。〇くの〇好き~ど〇どん〇行〇う♪」(※伏字ばっかでスミマセン)


 映画の二人よりは若干年齢が上であるが、草原を少女二人が歩く姿にはよく合う曲だ。

 そこへマユから通信が入る。

「ララさん。次はどこへ行かれますか?」

「うーん。近所にお城があるんでそこを覗いてみます。美術城イクリプス?」

「草原の中ですね。芸術家とか、怪しい人とか怪しい人外とかが集まっている場所のようです。ところで、後を付けられているのですが、気付いてますか?」

「ええ、気づいています。何やら黄色い羽毛の大玉が……」

「ぴよ」 

 突然黄色の物体が目の前に現れた。先ほどまでは50m程後ろをついて来ていたのだが、この移動速度は尋常ではない。

 つぶらな瞳のまん丸い姿は鳥だろうか。殆ど球形の胴体に球形の頭がちょこんと乗っかっている。ひよこのような黄色い羽毛に包まれているのだが大きい。

「ぴーよ?」

 小首をかしげながら頬ずりをしてくる。

「うわ。くすぐったいよ」

 くちばしで脇腹を軽くつつく

「そこダメ。私、そこ弱いんだから。ダメ」

「ぴよよ!」

 ポーンと跳ねてララの上に乗っかる。

 体長5mで1tの重量がある巨大な小鳥である。

「ぴーよ?」

 下敷きにしたハズのララがいない事に気付き、再び小首をかしげる。

「ぴよ」

「こっちだこっち。お前結構危ない奴だな。今の、普通の人間だったら圧死してるぞ」

「ぴーよ?」

「何だ何だ。ナデナデして欲しいのか」

「ぴよ」

 ララが頭を撫でる。すると嬉しそうに目を細める。

「ところで姉様。こいつは何者ですか?」

「モナリザ・アライ陣営の代理。ヴィランよ」

「ぴよよ!」

 嘴を開き固定した。すると……

 鋭い閃光と共にビーム砲が放たれた。しかし、明後日の方角。

 着弾した地点は直径70~80メートルにわたって草原が発火した。

「マジ?戦闘艦並のビーム砲じゃないか」

「ぴよ」

「お前、私と戦うのか?」

「ぴーよ?」

「どうする?」

「ぴよ」

「腹減ってるんだろ?」

「ぴよよ!」

「じゃあ、私と少し運動しようか?」

「ぴよ」

「私はプリンセス・フーダニット陣営の代理、ララ・アルマ・バーンスタインだ。この、大きな小鳥との対戦を希望する」

「ぴよよ!!」

「デュエル承認されました。プリンセス・フーダニット陣営の代理、ララ・アルマ・バーンスタイン様とモナリザ・アライ陣営の代理、ヒナ様のデュエルを開始します。5……4……3……2……1……開始です」

 ヒナという名前があった。

 しかし、ララは腕組みをしたまま動かない。

「ぴーよ?」

 ヒナも小首をかしげて動かない。

「姉様。この子の弱点は?」

「特にありません。生物的な急所が弱点ですね。貴方まさか、食料にするつもりですか?」

「さすがにこの生きものを食べる気はありません」

「ぴよよ!」

 再び嘴を開き固定した。明後日の方向に鋭い閃光と共にビーム砲が放たれた。

 今度は空中へ発射され被害はない。

「ぴーよ?」

 翼をはばたかせてのしかかってくる。

 しかし、ララはかわしてその背に飛び乗った。

 黄色い羽毛玉だと思っていたのだが、所々羽毛が抜け落ち、皮膚に傷跡がある。

「お前、食われそうになってたのか?」

「ぴよよ!」

 何となく話が通るのが面白い。

「なあソフィア。こいつ眠らせる事できないかな?」

「出来ない事はありませんが、私の手持ちの麻酔を全て使用することになります。それでもよろしいですか?」

「結構。やってくれ」

「了解しました」

 ソフィアが右手の人差し指をヒナの方へ向ける。そこから細長い針のような物が伸びていきヒナの首と思われる部分へすっと刺さっていく。

「ぴーよ?」

 少し痙攣したヒナはゆっくりと目を瞑り草原に倒れる。

 そのまま動かなくなった。

「ソフィア。ベルを探せ。どこかに付けているはずだ」

「翼に矢が刺さっていますね。これはどうしますか?」

「取ってやれ。治療が必要なら施せ」

「了解しました」

 それから数十分かけ、ヒナの体を調べた。矢が3本、槍の穂先が2本、短刀が1本体から見つかった。あの、過剰なスキンシップはこの異物を取り除いて欲しかったからなのだろう。程なくコイン型のベルも見つかった。

「尾羽の付け根にうまく隠してありました。これは麻酔しないと見つけられません」

 ララはソフィアからコイン型のベルを受け取り握りつぶした。

「只今、モナリザ・アライ陣営の代理、ヒナ様のベルが破壊された事を確認しました。デュエルの勝者はプリンセス・フーダニット陣営代理のララ・アルマ・バーンスタイン様です。繰り返します。勝者はプリンセス・フーダニット陣営代理のララ・アルマ・バーンスタイン様です」


「ララさん。2勝目おめでとう。この調子で頑張ってね」

「姉様。これは勝利と言って良いのでしょうか?」

「そうカウントされたんだからいいじゃないの。食べたわけじゃないし」

「それはそうですが」

「ララ様。傷口の治療は完了しました。あと数十分で目覚めると思います」

「そうか、しばらく待とう……何の用だ?」

 何時の間にか周囲に3名の男がいた。一人は水平二連の猟銃を持ち、一人はボウガンを持っていた。そして、大きいククリナイフを構えた男。猟銃を持つ男は遠慮なくララに銃口を向けている。

「お嬢ちゃん、そのまあるい鳥を寄こしな」

 ククリナイフを構えている男が凄みをきかせた声で言い放つ。

「これは私の獲物だ。煮て食おうが焼いて食おうがペットにしようが私の自由。大金を出すから譲ってくれ、という話なら聞かんことはない」

「金をくれだと?このおませちゃんが。一発いくらだ?500なら買ってやる。ふはははは」

 そう言って大笑いしているのはボウガンの男。

「交渉などしない。その獲物を渡せ」

「ここじゃ金髪碧眼は珍しいからな。二人とも別嬪さんだから高く売れる。まあ、売る前にたっぷりと楽しませてもらうけどな。ひぇへへへ」

 ククリナイフの男と猟銃の男が下世話にしゃべる。二人とも下卑な、という表現がぴったりな下卑な顔つきだ。

「お前達もロリコンか。腐ったオヤジ共だな」

「ふん。言ってろ。お前たちはもう俺たちの獲物だ。逃がさ!」

 ララは言葉の途中で猟銃の男の股間を蹴り上げた。そいつは数メートル後方にすっ飛ばされた。

「な、なんだ今のは」

 そう言ってボウガンの男はララに向かって矢を放つ。しかし、その矢はララがしっかりと捕まえていた。

「まさか、矢を素手で捕まえたのお」

 その刹那、ボウガンの男の右目に矢が刺さっていた。

「うぎゃあああああああ」

 ボウガンの男はボウガンを放り投げそこら中を転げまわる。

 その転げまわる男を見つめているララの背後からククリナイフの男が切り付けてきた。しかし、ララの姿は消えククリナイフの男の背後に移動していた。

「これでも喰らえ。馬鹿猿が」

 ララのつま先がその尻の中心、肛門に突き刺さっていた。

 ククリナイフの男は声も立てず悶絶して気絶した。


 陰嚢破裂、眼球損傷、肛門裂傷。


 まあ、他人の獲物を横取りし、子供を人買いに売り払おうとする輩がこの程度で済んだことはきっと幸運だったに違いない。


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