act.7 クメールルージュの闇とvs『ガチのマジでヤベーやつ』ポルポル=ポトト

 ララとソフィアはセレブ・ボーダーの町に入っていく。

 中は東側が廃墟となっており西側は豪奢な建物が健在だ。元々が貴族階級の住む町だったようで、その作りは立派であった。

 人通りは多い。しかし、活況とは言い難い。

 何かから逃げる。何かを追いかける。悲鳴と笑い声。

 廃墟になった家屋から幾つかの死体がブラ下がっていた。

 死臭が漂う狂った町。

 そういう印象だった。

「ララ様、お昼の食事をいただかないと戦闘開始の12時に間に合わなくなりますよ」

「そうだな。こんな所で昼飯を食べるのは気分が悪いな。出ようか」

 今来た道を戻っていき町の外へ出る。川沿の道を上流へ向かってしばらく進み土手に座ってお弁当を広げる。

 今朝、草原の屋敷で貰ったサンドイッチの詰め合わせだった。ララは一生懸命ほおばっているのだが、そこに突如アナウンスが聞こえてきた。


「まもなく社長戦争が開始されます。繰り返します。まもなく社長戦争が開始されます。これよりカウントダウンを開始いたします。カウントがゼロになりますと戦争開始です。30……29……27……」


 ララはまだ悠長にサンドイッチをほおばっている。

「ララ様。悠長に食べていてもよろしいのでしょうか?」

「心配するな。ルールでは相手と同意があって初めてデュエル開始となる。つまり相手がいない事にははじまらない」

 ララはそう言って残りのサンドイッチを食べている。

 その時、マユから通信が入った。

「ララさん。準備は良いですか?」

「はい、腹が減っては戦は出来ぬともうしますから、今、一生懸命詰め込んでおります」

「そう。あなた達のいる場所から3キロほど離れた場所に代理の反応があります。注意してください」

「分かりました」

「そのヴィランは、町に向かっていますね。東側からです」

 町の東側、それは今ララ達がいる方角になる。

「え?代理の私ではなく町に向かっているのですか?」

「そうですね。貴方は無視されていますよ。ララさん」

 そう聞けば急ぐ必要はない。残りサンドイッチを全て口に放り込みお茶で流し込む。


「7……6……5……4……3……2……1……ゼロ、社長戦争開戦いたします」


 荷物を整理しリュックを背負うララ。町の東端に大きいのがいる。

 ロボットか?

 それとも?


 両眼3.0の視力を持つララの眼には異様な姿の怪物が映っていた。


 身長は約3.5m。白い肌の巨人だ。上半身は裸で腰に蓑を付けている。

 しかし、何故だか黒ぶちの眼鏡をかけている。

 (あの眼鏡は何だ?何か武器なのだろうか?ビーム砲でも内臓されているのか?)

 原始的な格好に黒ぶち眼鏡は大いに違和感を発していた。そのララ達には目もくれず、一目散に建物へ向かいその壁を破壊し始めた。

「姉様。あの巨人は何やってるんですか?建物を破壊してますが、それ以外の目的が見出せません」

「こちらでも確認中です。ララさん接近して戦闘態勢に入って下さい。接触するまでに情報を開示します」

「分かりました」

 ララとソフィアは巨人に向かって走っていく。

 巨人まで150mという場所でララは止まり荷物を下ろした。

「ソフィアは荷物番だ」

「了解しました」

「姉様。情報は?」

「ポルポル=ポトト。徹底原始的共産主義者ですね。『文明は差別を生む。それを廃した時こそ我らは真に平等となれるのだ』との主張を持っているようですが、平等を甚だ勘違いしてますね」

「思想はいいです。身体的特徴、および、武器や特技を」

「えーっと。待ってね。武器は持っていない。身体能力が異様に高い巨人です。敏捷性も膂力も飛びぬけています」

「分かりました。注意します」

 ララは眼鏡巨人に50mまで近づき大声で叫ぶ。

「私はララ・アルマ・バーンスタインだ。プリンセス・フーダニットの代理として参戦している。貴公もどこかの陣営に代理であろう。いざ勝負せん!」

 眼鏡巨人はララの呼びかけに応じる気配が無い。建物の中に入り込み梁や柱を掴んでは破壊している。

「ララさん。アルマ帝国の名を出されてはいかがですか?共産主義者は帝国を酷く嫌うものですから」

「そうですね。言ってみます」


 再び大きく息を吸い込んだララが大声で叫ぶ。

「私はアルマ帝国第四皇女である。ララ・アルマ・バーンスタインだ。帝国の威信にかけ貴様のような似非共産主義者を許すわけにはいかない。さあ、私と勝負しろ。今こそ雌雄を決する時だ!!」

 眼鏡巨人はその一言に反応した。ララの方を向く。

「帝国許さない。格差許さない。お前、し、し、処女か」

「私がヤリマンに見えるか?この唐変木が」

「毛は生えているか?」

「聞くな。生えてない。初潮もまだだ!だから何だって言うんだ!!」

「戦う。お前貰うー」


 巨人が叫ぶとアナウンスが始まった。

「デュエル承認されました。プリンセス・フーダニット陣営の代理、ララ・アルマ・バーンスタイン様とモナリザ・アライ陣営の代理、ポルポル=ポトト様のデュエルを開始します。5……4……3……2……1……開始です」


 同時に眼鏡巨人が襲い掛かって来た。3.5mの巨体とは思えない素早い動きでパンチを浴びせてきた。しかし、ララは余裕で回避している。


「ララさん。気を付けて。そいつ、重度のロリコンで変態よ。捕まえた幼女は死ぬまで玩具にする変質殺人者。容赦しなくていいわ」

 その報告を聞いてララがしかめっ面をした。

 いわゆる苦虫を噛んだような表情だ。

「姉様。このデュエルを棄権しても良いですか?」

「駄目です」

「デュエルの破棄は有りですか?」

「ありません。一旦始まってしまうと決着がつくまでは中止できません」

「ハーゲンに代わってもらえるかな?」

「無理です」

 俯くララである。本当に気持ちが悪い様子だ。

 そこに眼鏡巨人が柱を投げてきた。

 しかめっ面をしながらも、余裕でかわすララ。


「さすがの私もキモイんですけど」

「我慢しなさい」

「でも……」

「無事に帰って来れた場合は、バケツプリンを用意させます。だからね、ララさん。貴方が頼りなのですよ」

「バケツプリンですね。ね。本当ですね。ね」

「二言はありません」

 その瞬間にララの瞳は閃光のごとく輝いた。


 梁を掴み振り抜いてくる眼鏡巨人だったが、ララはその一撃もひらりとかわす。そしてジャンプすると眼鏡を蹴り飛ばした。黒ぶちの巨大な眼鏡は大きく宙に舞い落下する。ララはその眼鏡を踏みつけレンズを破壊した。

 巨人は急に視界を奪われたのか、ララを無視して暴れ始めた。

「姉様。あの眼鏡は武器ではなかったのですか?」

「そのようですね。極端な近視と老眼だとデータにあります。武器ではなかったようですね」

 眼鏡を失った巨人はさらに暴れ続ける。家屋の壁をぶち抜き、レンガを投げる。柱を振り回して家屋を潰す。その傍若無人っぷりにあきれ顔のララは右手を前に出しその手首を左手で掴む。右手を広げ気合を込めそしてゆっくりと右手を握り始める。

 途端に巨人が胸を押さえて苦しみだした。

「貴様の心臓を握りつぶしてやる。死ね。この変態め」

 ララが右の拳を握り締めた瞬間に巨人は口から鮮血を吐きだしながら絶命した。そしてゆっくりと倒れた。


「只今のデュエルの結果を発表します。勝者はプリンセス・フーダニット陣営代理のララ・アルマ・バーンスタイン様です。繰り返します。勝者はプリンセス・フーダニット陣営代理のララ・アルマ・バーンスタイン様です」


「ララさん。初戦突破おめでとう」

「ありがとうございます。姉様。こいつ殺しちゃったけど、良かったのかな?」

「大丈夫でしょう。カンパニーとしては、扱いに困った個体を戦力として活用しようとする意図があったと思いますよ。あれは処分したかったのではないですかね。問題はないと思いますよ」

 そう説明したのは金森だった。


 社長戦争はまだ始まったばかり。この先どんな代理と出会うのかは不安はあった。しかし、ララは帰った時の楽しみが増えた事を喜んでいるのだ。バケツプリンの魔力には勝てなかった帝国最強戦力様である。

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