第8話 許さない

「逃げろ……ラ……。」



クラークの肩から噴き出した、熱い血が俺の顔にかかる。


そしてクラークは血を吐き最後の言葉は聞こえなった。

膝から崩れるように倒れたクラーク。


やっと…………頭と身体が動きだした。




「何してくれているんだ!! この獣ごときが!!!」




俺の周りに風が集まっていく。


クラークに止めの一撃を食らわせようとしていたキマイラを風が取り囲む。


そして突風が発生し、キマイラをひっくり返し、後方に吹き飛ばす。




「絶対に許さんぞ!糞!!」




魔法の方程式を解いたと同時に、倒れたキマイラの周りを土が取り囲むように盛り上がる。

その土が砕け散ると中から、無数の岩で出来たつららがキマイラの身体を突き刺し、岩が檻のようになり囲む。


俺は血まみれのクラークに近寄り抱き上げる。

クラークの傷は肩から胸にかけて引き裂かれていて、傷からは肋骨が砕けて内臓が見えていた。




どうしようもなく馬鹿だけど俺には優しかった。


隙を見せると抱きついたり、嫌がってもキスをしてくるちょっとおかしな父親。


スケベで毎晩しているのに、決して俺と離れて寝ることをしなかった。


初めて信頼できる父親が出来て嬉しかった。


やっと安心で居心地のいい家族を持てたのに。



宝物のような家族……。




……これを壊す存在がいる。





許さない。




俺にどす黒い感情が沸いてくる。





生まれて初めて。





いや……。




前世からも含めてなかった。


どんなに虐められていても、どんなに無視をされていても、どんなに嫌がれようとも……。



湧かなかった怒りの感情。





「お前!ただで死ねると思うなよ」




俺はキマイラの両目に尖った石を飛ばしてつぶす。


それは土魔法で作った尖った石に、風魔法の力を足して高速状態で当てる。


「ぐるがああああああああ」


端末魔のような声が聞こえるが、どうでもいい。


それよりも先にクラークを治す。


大怪我を治すには大量の水が必要だ。それは水の精霊を沢山呼び出すために必要なことだ。


クラークの傷ほどならば、河川ぐらいの水沢山の水の精霊が必要になってくる。



しかも周りには全く水がない。








だが、関係ない!




「こい」



周りにある木々が急速に枯れていく。


そして煙のようなものが辺りを包みだす。


周りが全く見えなくなると、突風が吹き、上空に煙を押し出す。





……すると大量の雨が降り出した。





そうだ、水がないのならば、


…………ここで作ればいい。



周りに水分があるのはわかっている。


ならそれを集めて降らせばいい。



俺は大量の水の精霊が発生しているのを感じると、それを使い魔法の方程式を完成させる。



腕の中にいる血まみれのクラークの傷が急速に治っていく。


水の精霊の力を借り、傷ついた内臓を元に戻るようにイメージして、散らばった細胞を集めて元の形に戻すようにしていき、足りない細胞は急激に増やしていく。



「ちょっと力が足りないが」



魔法で細胞を増やすことができるが、体力の回復はすることがない。


大量の血が出たせいでクラークの体力が落ちている。

このままでは死ぬ可能性がある。



「まあ、なんとかする」



大量の出血で意識を失っているクラークを静かに地面に寝かせる。



「さて、落とし前つけようか」



岩で出来た檻の中にいるキマイラに向かって言った。


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