第7話 初めての恐怖

クラークが持ち帰った魔物を何度も見たことあるが、こんな巨大で生きているを姿を目の前で見たのは初めてだった。


大きさは動物園で見たことのあるアジアゾウと同じぐらいだった。

そんな巨大な生物がすぐ目の前で、今にも襲い掛かってもおかしくない感じで俺らに牙を剥いている。

俺はあまりの迫力に固まってしまった。



「ラーク、落ち着いて聞きなさい。今の目の前にいるモンスターは、普段ここら辺には、出ることのないモンスターで……ちょっとこいつは、お父さん一人ではきついかもしれない。……だから合図したら振り返らず、村に向かって走りなさい! 」


クラークは普段、俺には言わない口調で話し出す。それほど危ない状況なのがわかる。


「絶対にお前は助かる!お父さんが絶対に助けるから安心しろ!!……力を我に腕力増強……速さを我に脚力増強…… 守りを我に防御力増強


クラークの腕と足や胸に施されている入れ墨が光る。


それは『呪紋』じゅもんといい、特定のキーワードともに発動する精神魔法の一つだ。


精神魔法は精霊を全く使わず魔力だけで発動する自己強化魔法だ。呪紋を使わなくても魔力を使うだけで使えるのだが、集中力が切れたら効果が切れるのでこの呪紋を施しているのが一般的だ。呪紋は一度発動すると一定時間は切れることなく発動し続ける。


勿論色々な欠点もある。まずはその精神魔法がそのものが使えることは必要だ。

そして呪紋は普通に使うよりも魔力が多く失われるのだ。

だがそれを踏まえても使い勝手がいいから、ほとんどの冒険者は使用している。


クラークのように同時に3つも起動展開するには、それなりの魔力と集中力が必要で流石と言えるべきだろ。



足元のあったホーンラビットの肉を、クラークは左手で掴み、俺らから遠くに投げ捨てた。


だが……目の前のキマイラは、肉の方を全く見ずにこちらを威嚇し続ける。


「無理か、やはり完全に俺ら目的か、さほど美味いとは思わないけどな」


魔物の中には人間の味を覚え、主の食料が人間としている魔物がいる。そいつらは人間を求めあちこちと流浪したりして、旅人を襲ったり村を襲っていく。『それらを倒すために冒険者が存在する。』とクラークに聞いたことがある。


……どう見ても目の前の魔物は、クラークが一人だけで相手するには無謀と言える強すぎる相手だろう。


覚悟を決めたクラーク、


「走れ、お父さんが絶対に守るから」


キマイラに斬りかっていく。

しかしキマイラは巨体ながらも、素早い動きでクラークの攻撃をさけ、その上すれ違いざま大きな前足で、クラークをひっかくようにして殴り飛ばす。


しかし俺はときたら……恐怖で全く動けなかった。

こんなに殺気をぶつけられたことが、今までになかったことだからだ。


まるで身体中が痺れたみたいに麻痺している。


キマイラはそんな俺の方を狙って襲ってくる。キマイラとしては、子供の俺の方がいいご馳走に見えるのだろう。


「逃げろ!!!」


クラークは叫ぶ!


動かない俺をかばうために呪紋で強化した脚力素早さで、瞬時に俺とキマイラの間に入る。


「剣よ敵を切り裂く力を」


剣に仕込まれた呪紋じゅもんが輝いて、剣の切れ味が上がりそれでキマイラを切り裂く。


「ぐるがああああ」


怒り狂うキマイラ。噛みつこうとして牙を剥いて大きな口をせり出す。


だがクラークが上手くかわして斬りかかるが、キマイラにはまともにあたらない。


一進一退の攻撃。

 


だがしかし……初めの一撃で裂かれたのだろう。切り裂かれたクラークの背中からは吹き出すように血が流れだしている。


防御魔法呪紋による強化をしていてもこれだけのダメージがあるなら、普通ならさっきの一撃で死んでいてもおかしくはない。



「お願いだ!逃げてくれ!」



このクラスの大型魔物は、普通なら凄腕の冒険者が数チーム単位で囲み攻撃して、やっと勝てるかどうかの相手だ。


以前に聞いた冒険談シールの昔話で聞いた話では、3チーム合同で攻撃して、半数が死亡したと聞いていた。

それをたった一人で、しのぐのは無謀すぎる。



しかもクラークは俺を守りながら、その場を動かずに攻撃し続ける。


しかし相手は巨体なのに素早い動きでよけ続けて、ついにはクラークの身体を鋭い爪で切り裂く。



「逃げろ……」



クラークの血が俺の顔にかかっていた。




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