第23話 VSハヤブサ②

 「あと少しい……!」


 先頭交代を繰り返しながら空気抵抗による疲労を分担したおかげで、何とかハヤブサを見失わずに食らいついていくうちに、回りの景色はいつの間にか山の奥深くになっていた。


 民家や人工的な建造物は見当たらず、ザ・山奥といった感じだ。


 いったいどこまで飛んでいくのか、何のためにイルカのぬいぐるみを持ち去ったのか。そんな疑問が自然と浮かんできた。


 「ねえ、いったいハヤブサはあのぬいぐるみを何に使うつもりなのかな?」


 わたしが左のポジションを担当してる時、誰当てと言うわけでもなく聞いてみた。


 「普通に考えれば獲物として獲っていったと思うけど、でも間違って食べたりしたら危険だよね……」


 右ポジションの楓ちゃんが答えてくれる。先頭の彩先輩はさすがに答える余裕がないようだ。


 「肉食の鳥は消化できなかったモノ、例えば食べたネズミの骨や小鳥の羽毛なんかをまとめて吐き出す、それを【ペリット】と言うが、っテ、フクロウを飼っているりんは知ってるカ。でもぬいぐるみをそのまま食べたりしてしまったら明らかに体に良くないだろうナ」


 最後尾で翼を休めているパフィンちゃんが説明をしてくれる。


 そう、フクロウを飼う時にも、普通のエサの他に、きちんと消化できないものを吐き出す能力を忘れさせないためにエサ用として市販されている冷凍のネズミなどを与える。


 ――するとハヤブサは、神秘的な雰囲気の立ちこめる山奥の、切り立った岩崖の方へと方向を変えた。


 まるでファンタジー映画で魔法使いがすごい召喚魔法を唱えるような、高さ100メートルはありそうな断崖絶壁だ。


 その迫力に、みんな思わず圧倒されてしまう。


「はぁぁ、すごい、神奈川の中にこんな自然があったんだ……」


「ティティアンノートがなかったら、こんな景色を見られる事もなかったね……」


 わたしと楓ちゃんは、ぬいぐるみを取り返すといういう目的も飛んでいることも忘れて、思わず感動してしまった。


 こんな状況でなければ、スマホで写真を撮っておきたい気分になる。


 そして引き続きハヤブサを追って行くと、その崖の中腹にちょうど人が入れそうな横穴が空いているのが見えた。


 「あっ、あの穴の中に……」


 彩先輩がつぶやくと、ハヤブサはやっとスピードを落としてその横穴の縁に着陸した。そしてぬいぐるみを足からくちばしに持ち替えて、穴の奥へと進んでいく。

 

 「ふう、ようやく止まってくれたカ……」


 「私たちも入りましょう」


 パフィンちゃんと彩先輩が横穴の方へと向かう。


 わたしと楓ちゃんも横穴の入口に着陸して、ほっと一息つく。


 「ふぅぅぅぅぅ……やっと下りられたぁ。地面ってこんなに有難いものだったんのねぇ……」


 彩先輩がぐったりと座り込む。背中の翼もぺちゃんとだらしなく垂れ下がっている。わたしも含め、みんな同じ様子だ。


 「みんな、とりあえず水でも飲んで落ち着こうカ。水分補給は大事だヨ」


 パフィンちゃんがそういうと、みんなかばんからペットボトルや水筒を取り出して口を付ける。


 「「「「ごくごくごくごくごくごくごくごく、ぷはぁーーーっ!!!」」」」


 考えてみれば、ひとみちゃん捜索に出てから食べ物も飲み物も何も口にしていなかった。トラブルの連続で何か口にする発想すら出てこなかった。


 ああ、体の隅々まで水分が染み渡る――



 わたし「はぁーっ、何とか落ちついたなぁ」


 彩先輩「もう……翼がしびれるかと思ったよぉ」


 パフィンちゃん「ふにィ、しばらく動きたくなイ……」

 

 楓ちゃん「でもそういう訳にもいかないね……すぐに行かなきゃ」



 みんな水を飲んで息を整え、少し筋肉の疲労が回復していくのを確認した後、私たちは横穴の奥のへと歩き始めた。


 穴は直径2メートルくらいかな?右カーブになっていて、外から奥の方までは見えない構造になっていた。ゆるやかなカーブなので、穴の奥まで日光が届かないという感じではない。


 といっても薄暗い感じで、足元には注意して歩かなきゃならない。念のため、スマホの懐中電灯モードで足元を照らしながら歩く。


 そうして10メートルくらい歩いていくと――奥に動いているものが。


 

 黒い翼に、黄色い脚、独特の模様の胴体。


 あのハヤブサが、いた。横にはイルカのぬいぐるみのイルカちゃが置かれている。


 そしてその奥に、グレー色をした毛玉のような、わたのようなものがいくつかモコモコと動いている。


 


 あれは、もしかして――――。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


主人公周りの設定ですー。


飛鳥川 鈴(あすかわ りん) 本作の主人公。フォッサ女学院中等部生物部に所属する中学1年生。不思議な本「ティティアンノート」を発見したことから、動物少女に変身できるようになる。

絵が下手なので、ティティアンノートにスケッチを描くのは一苦労。ペットはフクロウのスピックスコノハズク「スピピ」


下連雀 彩(しもれんじゃく あや) 中学2年生、生物部。しっかり者の優しい先輩キャラ。ペットは三毛猫の「マーブル」


燕昇司 楓(えんしょうじ かえで) 中学1年生、生物部。家はネットカフェチェーンを経営している。

昔のマンガなどに詳しい。ペットはウサギのネザーランドドワーフ「キャラメル」


馮 佳佳(フォン チャチャ) 中学1年生、生物部。中国系の女の子。 家は横浜中華街の料理店、「壱弐参菜館」。

料理が得意。お金が好き。ペットはヨツユビハリネズミの「小太郎」


パフィン・アルエット 中学1年生、生物部。外国から来た生徒。飛び級で進学しているため現在10歳。

日本在住5年。好奇心旺盛でツッコミ大好き。ペットはパピヨン犬の「パピ」


飛鳥川 優衣(あすかわ ゆい) 鈴の姉。フォッサ女学院高等部の高校2年生。ちょっと天然の入った性格。

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