第22話 VSハヤブサ①

 イルカのぬいぐるみを両脚でつかみ、あっという間に飛び去っていく黒い疾風、


 「ハヤブサ」―


 そして、


 「う、う、うびゃあああぁぁぁぁぁーーーーっ!!イルカちゃーーーーーー!!」


 大好きなぬいぐるみが手元から訳も分からず無くなって、ひとみちゃんが泣き出してしまった。


 すると、それをいち早くハヤブサだと認識したパフィンちゃんが、ユリカモメの動物少女の姿のまま、地面を蹴って飛び立った。


 「カエデとアヤは鳥に変身して追いかけてきテ! チャチャはひとみちゃんをしばらくお願い!」


 「わ、わかった」「わかったわ」


 「ティティアンエボリューション・シジュウカラ!」


 「ティティアンエボリューション・メジロ!」


 楓ちゃんと彩先輩がティティアンノートを使いそれぞれ変身をする。


 そして、ひとみちゃんを家に連れて帰るチャチャちゃんは変身を解いた。そうしている間にも、ハヤブサとそれを追跡しているパフィンちゃんの姿はどんどん遠くなる。



 「よーし、イルカちゃ奪還作戦開始だよ!」


 「おかのした!」


 「いきましょう!」


 ダッ! バサバサバサッ!!


 わたしの号令と共に、彩先輩と楓ちゃんも、急いでパフィンちゃんの後を追いかけるように飛び立つ。


 パフィンちゃんとの距離、そしてイルカのぬいぐるみを持ち去ったハヤブサとの距離はだいぶ離れてしまった。全力で飛んで追いつかないと!


 「みんな、全速力で飛ぶよ!」


 そう言って全力で翼を動かす。三人ともこんなスピードで飛んだのは、ティティアンノートで鳥に変身できるようになって以来初めてだ。


 空気がまるで水飴のように体にまとわりつく。息が上がって、心臓がバクバクと鼓動を打つ。


 「「「はあ、はあ、はあっ!」」」


 どうやら何とかパフィンちゃんまでは追いつけそうだ。あと少しっ。

 

 「ぱ、パフィンちゃん…おまた、せっっ!」


 ようやくパフィンちゃんの元に追いついた時には、パフィンちゃんも含めかなり息が上がっていた。


 飛んでいたのは、時間にして3分くらいだろうか?たった3分。


 でも考えてみれば、普段から3分間も全力疾走なんて、陸上部にでも入ってなきゃしないものなぁ。全員に疲労の色が見える。


 パフィンちゃんがハヤブサの知識を教えてくれる。


 「ハヤブサが獲物を捕らえる時ノ最高速度は時速300キロ近く出るんだってサ……水平飛行でも100キロで巡航できるとカ……でも今はぬいぐるみが空気抵抗になっているのと、獲物を取った安心感からかそれよりは遅いみたいだナ」


 わたしたちが変身している鳥は、わたしがスピックスコノハズク、彩先輩がメジロ、楓ちゃんがシジュウカラ、パフィンちゃんがユリカモメだ。


 それぞれの正確なスピードは知らないし計った事もないけども、もし元の動物のままの能力だったら、とてもハヤブサにスピードで勝てそうなイメージが湧かない。



 そして一所懸命に翼を動かしながらも、楓ちゃんがそれに反応する。


 「ハヤブサ、あれで遅いのか……果たして追いつけるか……空気抵抗さえなければもう少し速く飛べるのに……空気抵抗……空気抵抗!!!?」


 突然に楓ちゃんが叫ぶ。


 「彩先輩、パフィンちゃん、鈴、空気抵抗だよ!ほら、あの自転車レースのマンガ!みんなでブームになったやつ!」


 彩ちゃんにそう言われて、わたしは楓ちゃんの家のネットカフェでいくつか読んだ自転車レースマンガを思い出す。


 確か……自転車のレースでみんなが固まって走るのは、空気抵抗を分担するためだって。時速20キロも出ていれば十分に風よけとして意味があるって書いてあった。


 わたしは普段はほとんど運動しないし、自転車だってママチャリに乗る程度だ。日常生活で空気抵抗なんて身近に実感したことはない。


 でも、でも、今やらなきゃ、ひとみちゃんの大事なぬいぐるみがなくなっちゃう!

 

 「わかったよ楓ちゃん、まずはわたしが先頭に立つよ!楓ちゃんはわたしの左後ろ、彩先輩は右後ろ、パフィンちゃんはわたしから少し距離を置いて真後ろに付いて!トランプのダイヤの形みたいに!」


 わたしは息が上がる中も、必死に声を絞り出す。ちゃんと伝わったかな?


 そうして後ろをみると、なんとかみんなイメージした通りの形に並んでくれた。


 すると、彩、楓、パフィンの身体に水飴のようにまとわりついていた空気が、スッと軽くなった。まるで野球部のトレーニングでタイヤを引いて走っていたのが、突如タイヤをつないでいたロープが切れたかのように。



 「あっ、これは……」


 「すごい!今までと同じスピードで飛んでるのに全然軽い力で大丈夫だ!まるで引っ張られているみたい!あのマンガに書いてある事、本当だったんだ」


 「助かりマス~。一人でハヤブサを追ってきて、そろそろ体力の限界だったカラ……」


 彩先輩、発案者である楓ちゃん、パフィンちゃんも驚いているようだ。


 そしてあの自転車マンガでは、確か……


 「わたしが疲れてきたら、次は楓ちゃんが先頭に立って、彩先輩は楓ちゃんの位置へと、時計回りに位置を変えて、スピードを落とさないようにしよう!一番疲れているパフィンちゃんは、しばらくずっと後ろで」


 「わかったよ、鈴!」


 そう、あの自転車マンガでは、一定時間で先頭を交代して、一人だけが疲れないようにしていた。


 四対一なら、いける――!


 そうして改めて前を見直すと、ハヤブサとの距離が、ほんの少しずつ縮まってきているのが分かった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※


主人公周りの設定ですー。


飛鳥川 鈴(あすかわ りん) 本作の主人公。フォッサ女学院中等部生物部に所属する中学1年生。不思議な本「ティティアンノート」を発見したことから、動物少女に変身できるようになる。

絵が下手なので、ティティアンノートにスケッチを描くのは一苦労。ペットはフクロウのスピックスコノハズク「スピピ」


下連雀 彩(しもれんじゃく あや) 中学2年生、生物部。しっかり者の優しい先輩キャラ。ペットは三毛猫の「マーブル」


燕昇司 楓(えんしょうじ かえで) 中学1年生、生物部。家はネットカフェチェーンを経営している。

昔のマンガなどに詳しい。ペットはウサギのネザーランドドワーフ「キャラメル」


馮 佳佳(フォン チャチャ) 中学1年生、生物部。中国系の女の子。 家は横浜中華街の料理店、「壱弐参菜館」。

料理が得意。お金が好き。ペットはヨツユビハリネズミの「小太郎」


パフィン・アルエット 中学1年生、生物部。外国から来た生徒。飛び級で進学しているため現在10歳。

日本在住5年。好奇心旺盛でツッコミ大好き。ペットはパピヨン犬の「パピ」


飛鳥川 優衣(あすかわ ゆい) 鈴の姉。フォッサ女学院高等部の高校2年生。ちょっと天然の入った性格。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る