第13話  夜中に部屋を抜け出して

 その日はみんな帰宅し、改めてウチに集まり、それぞれスケッチした鳥に変身して翼を動かしたり部屋の中を軽く飛んだりして楽しんでいた。


 鳥の動きはわたしの方が早く練習していたので、少し先輩気分だ。翼と腕が一緒に動かないようにするコツなどを伝授していく。


「よし、みんなだいぶ上手く飛べるようになったね」


「これなら鳥人間コンテストに出て優勝できるな。一位になって賞金ゲットだぜ♪」

 相変わらずのチャチャちゃんだ。


「いや、鳥人間コンテストってそういうのじゃないから!」

 楓ちゃんのツッコミが入る。


「そろそろ外で飛んでみたいナー。このままじゃせっかくの変身も宝の持ち腐れだヨ」

 パフィンちゃんがみんなの思っている事を代表して言う。



「町中じゃなかなか昼間には飛べないでしょうねー。完全な鳥の姿ならまだしも、まさしく鳥人間って感じのカッコだし、大きさも鳥としては大型だし。人に見つかったら大騒ぎになりそう」

 彩先輩らしい意見だ。


「あーあ、パー◯ンやとんで◯ーりんみたいに、空飛ぶ変身ヒーローが一般人にも認められている世界だったらいいのにな」

 私も思わず口にしてしまう。


「人間のいない異世界に転移とかネ」


「そういえばドラえ◯んってさ、タケコプターで飛んでいる所を他人に目撃されても、誰も通報とかしないのかな?」


「あれは多分、他人から見えなくなるか、気にされなくなる認識阻害系の機能も備わってるんだよ、石ころ帽子みたいな」


 楓ちゃんたちの考察が始まった。


「そうなると飛べそうなのハ、山奥とか人が入らなそうナ所か、あるいはー」


「こないだ行った山下公園の隣の埠頭の、夜の海の上とかかな?」


「「「「「それだ!」」」」」


 早速、私たちは夜中に集合して、こっそり外を飛ぶための作戦会議を開く。算段はこうだ。


 夜中の公園の端の茂みの中で変身をし、こっそりと埠頭の先端まで移動し、そこから海上を飛ぶ。


 ただ海の上を飛ぶだけだけど、何でこんなにワクワクしてくるのだろう。


 そしてその日の夜、作戦は決行された。


「よし、みんな変身だよ!!」


「ラジャー!!」


「ティティアンエボリューション・スピックスコノハズク!!」


「ティティアンエボリューション・シジュウカラ!!」


「ティティアンエボリューション・メジロ!!」


「ティティアンエボリューション・スズガモ!!」


「ティティアンエボリューション・ユリカモメ!!」


 五人全員が動物少女に変身を終えると、公園と埠頭を隔てる高さ三メートルほどの柵を羽ばたきながら軽々と飛び越える。


 「やっぱ改めてすごいナこの体、バランスからしテ体を浮かすだけの揚力が出せる大きさの翼ではないのニ、いったいどういう原理で飛べてるんだろウ……」

 飛び級で中学に進学した10歳の秀才少女、パフィンちゃんが改めて疑問に思う。


 「昼間に堂々と飛べれば、バイク便の会社に入って大儲けできるのになぁ。ほら、よく走ってるじゃん、60分中急送しますって、オートバイに黄色い箱をつけてる会社。この体なら、オートバイにも負けないと思うんだよね」


 「まったくチャチャちゃんはそればっかり」

 彩先輩が苦笑する。


 埠頭の倉庫と海の間に、ちょうど開けた直線がある。


 「ねえねえ、ここからあの埠頭の先端まで飛んでみようよ!」


 直線距離で200メートルほどだろうか。さっそく私から、少し助走をつけて翼を羽ばたかせる。


 足がふわっと地面から離れ、体が浮く。そのまま羽ばたきながら、慎重に高さ3メートルほどを維持する。やはり頭は人間だから、あまり高く飛ぶのは怖いけど、このくらいの高さなら大丈夫だ。自分の足で走る程度のスピードで飛び、無事に埠頭の先端に着地成功。


 「うわー、最高に気持ちがいい!!みんなも早く来なよ!!」


 「「「「よーし、行くぞー!!!」」」」」


 みんなも続いて埠頭の先端に着地する。成功だ!風も止まっている静かな夜だし、これなら…!!


「じゃあ次は、最終計画通り海の上を飛ぼう!!」


 まずは万が一、海に落ちてしまったとしてもたぶん水に浮かぶであろう、水鳥のスズガモであるチャチャちゃんからチャレンジをする。


 シュバッ!ばさばさばさ!!


 チャチャちゃんが海の上へと飛び立っていく。


 「うわぁ…信じられない。ピーターパンのあのシーンって、こんな気持ちだったんだろうなぁ……」


 続いてわたしたちも飛び立っていく。月明かりを反射する水面を見下ろしながら、夜目が効く私が先頭となりみんなでVの字型に整列しながら飛んだり、もっとスピードを上げたり、徐々に高度を上げて行ったり、逆に高度をスレスレまで落として海面をスキップしながら走ったり、色々な事をしながら遊んだ。


 落とさないように首からストラップで下げたスマホのカメラで、海から見た山下公園やみなとみらいの夜景の写真を撮る。海側の空から見る地上は本当に宝石箱のように綺麗で。


 これは本物の鳥には出来ない事だよね。翼と腕を別々に動かせる私たちだけの特権だね!


 その後、彩先輩がバランスを崩して海に落っこっちゃってチャチャちゃんに引っ張り上げてもらったり、楓ちゃんがスタミナ切れになっちゃったりとちょっとしたトラブルはあったけど、夜中に部屋を抜け出しての秘密のフライトは大成功したのでした。


 思い返すと、この時の経験がなければ、あのピンチは乗り越えられなかったと思う――


※※※※※※※※※※※※※


主人公周りの設定ですー。


飛鳥川 鈴(あすかわ りん) 本作の主人公。フォッサ女学院中等部生物部に所属する中学1年生。不思議な本「ティティアンノート」を発見したことから、動物少女に変身できるようになる。

絵が下手なので、ティティアンノートにスケッチを描くのは一苦労。ペットはフクロウのスピックスコノハズク「スピピ」


下連雀 彩(しもれんじゃく あや) 中学2年生、生物部。しっかり者の優しい先輩キャラ。ペットは三毛猫の「マーブル」


燕昇司 楓(えんしょうじ かえで) 中学1年生、生物部。家はネットカフェチェーンを経営している。

昔のマンガなどに詳しい。ペットはウサギのネザーランドドワーフ「キャラメル」


馮 佳佳(フォン チャチャ) 中学1年生、生物部。中国系の女の子。 家は横浜中華街の料理店、「壱弐参菜館」。

料理が得意。お金が好き。ペットはヨツユビハリネズミの「小太郎」


パフィン・アルエット 中学1年生、生物部。外国から来た生徒。飛び級で進学しているため現在10歳。

日本在住5年。好奇心旺盛でツッコミ大好き。ペットはパピヨン犬の「パピ」


飛鳥川 優衣(あすかわ ゆい) 鈴の姉。フォッサ女学院高等部の高校2年生。ちょっと天然の入った性格。

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