第8話

「よし、くよ。」

のぶくんはそううと、いつもママがするようにサエちゃんにしました。

 最初さいしょサエちゃんはひとりであるくつもりだったのですが、かぜがあんまりこわくてされたのぶくんのにぎりました。なにしろ、いままで経験けいけんしたことのないかぜだったのです。

ゴーッオー、ゴーッオー。

ひゅるるるるる〜、き〜〜ん。

ザンザンザンザン、ギュルルルッン〜。

 いたこともないようなおとでした。そして、かぜはサエちゃんに容赦ようしゃなくけて、どこかへばそうとしてきます。身体からだがふわっとがるようなかんじがしました。

にいや、こわいよ。」

 サエちゃんがのぶくんのつよにぎなおしていました。

大丈夫だいじょうぶだよ。おじいさんちはすぐそこだから。こう。」

ふたりはしっかりをつないであるきだしました。

あめってきたよ。」

 それはちいさなちいさな雨粒あまつぶでした。だから、ふたりのあたまうえちるまえにどこかへばされてしまいました。

大丈夫だいじょうぶ。まだパラパラだから。」

 のぶくんは自分じぶんかせるようにサエちゃんにうと、さきいそぎました。おとなりさんのまえとうって、ぎに山田やまださんのまえあるいてきました。

 山田やまださんのいえには5年生ねんせいのおねえさんがいました。でもいまはぴったりとまどじられ、カーテンがしっかりとかれていました。

 それから、こわそうなおじさんのいるいえまえあるきます。すると、サエちゃんがいつもあそびに児童公園じどうこうえんえてきました。

ザワザワザワ・・・、ザワザワザワ・・・。

ガサガサガサ・・・、ガサガサガサ・・・。

 公園こうえんがたくさんのっぱをらせておおきなおとてていました。そこここにちいさなえだれてちています。

にいや、あれ。さっきの・・・。」

 公園こうえんまえでサエちゃんがおどろき、見開みひらいてゆびさしました。のぶくんがそっちをると自転車じてんしゃにまたがったおとこがいました。のぶくんよりすこしおにいさんなかんじですが、中学生ちゅうがくせいなんかではありません。台風たいふうにこんな子供こども自転車じてんしゃって・・・。のぶくんはすこ不思議ふしぎ気持きもちちになりました。

「さ、こう。」

 のぶくんはあまりかかわりになりたくないとおもい、サエちゃんのきました。

「ごはんだよ、ごはん。」

 でもサエちゃんはそのおとこからはなしませんでした。あるしながらもかお自転車じてんしゃったおとこていたのです。

「ねえ、きみたち。」

 突然とつぜん二人ふたりこえをかけられました。だれから? いるのは自転車じてんしゃだけです。のぶくんはむねがドキドキししました。ドキドキがこれ以上いじょうおおきくならないうちにおじいさんのところへ、ママのところへ、きたいとおもいました。

「ねえ、ってよ。」

 のぶくんはそっちのほうないようにしてサエちゃんをってこうとしました。もうドキドキは自分じぶんみみこえそうなくらいおおきいおとになっていました。

「あなたはだあれ?」

 サエちゃんがきゅうにそううと、のぶくんのにぎったまま公園こうえんなかへ、自転車じてんしゃほうあるしたのです。

「サエちゃん。」

 のぶくんはふるえるこえびましたが、サエちゃんは公園こうえんなかへどんどんあるいいてってしまいます。

「どこからたの?」

 その少年しょうねんはランニングシャツにはんズボンという、最近さいきん子供こどもがしそうもない格好かっこう自転車じてんしゃにまたがっていました。

 しかも、ちょっとふるかた自転車じてんしゃです。どこの田舎いなかからたんだよ、そうみたくなるような少年しょうねんだったのです。いやいや田舎いなかだって今時いまどきはこんな自転車じてんしゃないでしょう。

「どこから来たの?」

 サエちゃんはのぶくんをって少年しょうねんちかづいていきます。

「ねえ、どこからたの?」

「え? なに?」

少年しょうねんかえしました。

かぜがうるさくてこえないの。どこからたの?」

今度こんどはもうすこおおきなこえでサエちゃんはその少年しょうねんきました。

 「ああ、ごめんよ。ちょっとしずかにさせるね。」

少年しょうねんはサエちゃんにそううと、自転車じてんしゃのベルを3かいらしました。

リンリンリン!

 するといままでビュービュー、ゴーゴーさわいでいたかぜがパタッとんだのです。のぶくんはまるくしました。そして心臓しんぞうのドキドキは益々ますますおおきくなったのでした。

「あ、どうやったの?」

サエちゃんもまるくして少年しょうねんきました。

 「まあね、オレの得意技とくいわざだから。」

少年しょうねんすこしはにかんだようにいました。

「しゅごいね。」

サエちゃんが今度こんどはのぶくんにかっていました。

「・・・うん。」

でも大緊張だいきんちょうののぶくんはそれだけうのが精一杯せいいっぱいでした。

 かぜんだ薄暗うすぐら公園こうえん街灯がいとうがひとつしかいてなくて、よるのように不気味ぶきみでした。昼間ひるまのいつもの公園こうえんとは全然ぜんぜんちがいます。

 しんとしずまった公園こうえんでさっきまでかぜあおられてキーキーいていたブランコもしずかにれていました。


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