1-17 家族とはなんぞや?

 ララファの家に住んでいるのは本人と使用人だけなので、空いている部屋はいくつもあるらしく、俺達はそれぞれの部屋に割り振られた。

 シャンはレインと同じ部屋で過ごして、俺には一人用の部屋を与えてもらった。

 客間だと言うのに、相変わらず広くて落ち着かない。やはり貧乏人には身の丈に合わないのかもしれない。


 夕飯はララファ家で食べたが、どれも見たことのないような贅沢な品ばかりで、庶民としてはあまり口に合わなかった。そのためか、あまり食べた気はしない。

やることもなく俺はただベッドに転がって天井ばかり眺める。

 前まではシャンがうるさく、レインが俺を煽ったりして嫌な気分であったが、それが急になくなると言うのは調子が狂うものだ。


 ララファは明日からレベルアップのために修行をしていくとも言っていた。

 しかし、本当にシャンを戦わせていいのだろうか?

 シャンはまだ子供だ。もっと子供らしい生活を与えてやるべきなんじゃないだろうか?

 とにかく、そんなことばかりを考えている。

 考えるのが嫌になった俺は寝ることにしたのだが、ドアからノックする音が聞こえて仕方なく起きる。


 「シンヤさん、起きてます?」


 声の主はレインだった。

 ドアを開けるとシャンもいた。


 「どうしたの? 明日から大変だろうし早く寝たほうがいいんじゃない?」

 「それがですね、シャンがどうしても三人が良いって聞かないんです」

 「パパ、みっけ!」


 シャンは俺の足元に抱き着いてくる。

 ほんのしばらくの間だが、俺らは毎日あの小さな家で過ごしてきた。俺もそうだが、シャンも大きな部屋に戸惑っているのだろう。


 「うん。俺は別に構わないよ」


 思わずそう答えてしまった。

 


 ☆


 

 一通りシャンの相手をすると、彼女はすぐに寝てしまった。いろいろあって疲れたしまったのだろう。

 レインは俺の隣に腰を掛ける。甘いシャンプーのにおいがほんのりとして落ち着かない。

 どうせこのシャンプーも良いものに違いない。真の金持ちは見えない所でも金を掛けるものだなあと感心してしまう。


 「ねえ、レイン。勇者のこと知ってたの? 白とか黒とか」

 「はい。私達の組織はもともと、黒い勇者を討伐するために、たくさんの勇者を作ってきました。その一人がこの子なんです」

 「シャン意外にも白い勇者がいるの?」

 「はい。いました」


 過去形でレインは言う。


 「そうなんだ。でもさ、勇者にするならもっと屈強な男とかにするべきなんじゃないの? ほらグラディエーターみたいなやつ」

 「もちろん最初はそんな筋肉マンばかり作っていました。でも、どれも失敗で、黒い勇者として育ってしまったんです」

 「へえ、マッチョマンは黒い勇者になる素質でもあるの?」

 「ララファさんが言った通り、育ちが大切なんです。いきなり10を作るより、1から作らないと駄目なんです。だから、シャンには愛情が必要なんです」


 沈黙が訪れる。何を言っていいのかわからなくなる。

 本当は言いたいことが山ほどあるのに、口は糸で縫われたように開くことが出来ない。

 するとレインが、


 「ごめんなさい」


 なぜだか謝る。


 「どうして謝るの?」

 「私、シンヤさんのこと騙していたんです。貴方を父親にしたのはシャンを白い勇者として育てるためだったんです。偽りの家族を演じさせていたんです」


 「別に怒ってなんかないよ。ただ、少し寂しいかな。偽りでも、俺は今でも家族だと思ってるよ。あのね、家族って嬉しいこととか悲しいことを平等に分け合うものだと思うんだ。なんだかんだ俺達は上手くやってきたじゃん。だから、これからも何かあったら相談してよ。きっと、そのほうがうまくいくと思うんだ」


 すると、彼女は黙りこくってしまう。


 「俺何かまずいこと言った?」

 「いえ、なんでもありません」


 彼女の弱弱しい姿を初めて見た。

 思えば、レインだってまだ子供だ。俺だって自分のことを大人だなんて思ったことはないけれど、少なくともこの子は年下で、女の子で、なにより孤独だったんだと思う。


 「やっぱり、シンヤさんで良かったと思います」


 意外なことを言った。


 「そら何でよ?」

 「馬鹿だからです」

 「酷いなあ」


 そうして二人で笑い合う。こうして心から笑いあったのは初めてのことだ。

そのことがすごく嬉しかった。


 「パパ、ママ、どうしたの?」


 俺達の笑い声のせいかシャンが起きてしまった。


 「ごめんね。うるさかった?」

 「ふたいともたのしそう。シャンもまぜて!」

 「起こしておいてなんだけど、明日から大変だから寝たほうが良いよ」


 俺がそう言うと、シャンは渋々ベッドに戻る。


 「パパもママもいっしょにねよ?」

 「うん。良いよ」

 「しょうがないですね。ベッドも広いし、ちょうどいいですね」


 そうして俺達は床についた。

 結局、昔の家と変わらずに川の字で寝る。

 その日はぐっすり眠れたが、おかげで寝坊した。

 もちろんララファからは罵詈雑言を吐かれた。

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