1-15 パンツで金稼ぎ その2

 町の広場には、クエパンに参加するであろう紳士たちが集まっていてとても汗臭い。例えるなら部室から制汗剤を取り除いたような匂い。つまりくさい。

 さらに異性はレインとシャンだけだから、チームを組んでいる俺は異様に目立って、周りの憎しみを込めた視線がブスブスと突き刺さる感じがする。


 「やっぱり帰りません?」


 「帰りません。ここまで来たら絶対にパンツ見つけてやるんですから」


 「パパのためにシャンがんばう! パンツみつける!」


 すると、


 「変態だ」「あの男危険だな」「通報した方がいいかな?」


 などと周りから聞こえてくる。お前らだけには言われたくない限りである。


 ああ、早く始まらないかなあ。確かクエストの開始時間は13:00からで、すでに10分前を切っているのだが未だに始まる様子がうかがえられない。


 「おーん。テメーらも参加するのか」


 後ろから聞き覚えのある声がした。


 「あ、四国の奈良漬け!」


 「漆黒の黒い爪だおおーん!」


 確かそんな名前だったな。つうか四国に奈良はない。


 「なんだよ。お前らもパンツ目当てか? あ、俺は違うよ」


 「おおおおおおおーん! 俺らもパンツ目当てじゃねーし!」


 動揺しているのかいつもより「お」の数が多い。


 「いやいや、恥じることじゃないよ。そら男に囲まれた生活してたら、女性のパンツが恋しくなるのも仕方ないよね。まあ、俺には関係ない話ですが」


 「ぐぬぬぬおーん……なんでお前みたいな冴えない男が女の子に囲まれてるんじゃ」


 あら、ちょっと優越感。もしかして周りもそんな目で見ちゃってる?


 「だーっははは! 子育ては大変だけどねえ! まあ、なに? 生きがいつーのかなあ? 寝顔なんか見たら明日も頑張ろうってなっちゃうよねえ!」


 「う、うらやましいおん……」


 「お前……あれか、子供がいるってことは、その……したのかおおん?」


 「は? したって何を?」


 「おおおーんそりゃお前。セッ……」


 おおおんさんが言いかけたところで、横から爆風が巻き起こる。


 「へ……?」


 気付いたころには漆黒三人組は広場の隅まで吹き飛ばされていた。


 「あは、子供の前で変な事言わないでくださいね」


 「……」


 レインの指先が魔方陣を形成している。恐らく彼女が吹き飛ばしたのだろう。


 「おー、ママすごいいいい!」


 シャンが無邪気にはしゃいでいるが、俺は次の標的は自分なんじゃないかと身構えてしまう。


 「あの、シンヤさん」


 「は、はい!?」


 「さっきの本当ですか?」


 「な、何がですか?」


 「その……子育てが生きがいだって」


 珍しくしおらしい彼女の姿に戸惑う。


 「急にどうしたんだよ」


 「一応、私のミスでこんなことになって、迷惑なんじゃないかと」


 なんというか今更である。


 「別に迷惑とか思ってないよ。……思ったより楽しいし」


 「そうですか……」


 なんだ、この幼馴染の女の子と疎遠になるような空気は……ああ、俺に幼馴染の女の子なんていないので対応の仕方がわかりません。


 「パパもママもげんきない?」


 俺達の空気の変化を察っしたのか、シャンがこちらのやり取り見ている。


 「んー? ママは元気だよー。パパは根暗なだけです」


 「パパはねくあ!」


 「お前らな……」


 なんだかシャンの笑顔には助けられてばかりで調子が狂う。でも、このひなたぼっこをするような温かくて平和な気持ちは嫌いじゃない。

 のほほんと過ごしていると、周りがざわつき始める。

 周りの男どもの視線の先を辿ると、そこは広場の檀上の上に一人の女の娘がいた。


 レースを基調にした赤いドレス。金髪の縦ロールは金持ち感を主張している。恐らく依頼主は彼女だ。その証拠に美少女という情報が合致しているようで非常に嬉しい限りである。


 「ごくろう、集まったなクズども」


 どうも性格はブスのようだ。


 「「うおおおおおおおおおお! ララファ様あああああああああああ!!」」


 しかし、彼女の罵声で周りの男どもは歓声をあげるのである。驚くことにこのクエストはマゾ向けコンテンツだったのだ。


 「くふふ、威勢が良く結構であるが、貴様らはパンツひとつ見つけられないゴミクズだ。少しは身の程を弁えたらどうだ?」


 辛辣な言葉ばかりであるが、罵倒を吐かれるたびに歓声が起きる。その重圧感に圧倒されてしまい眩暈がして仕方がない。


 「もしかしてあの子が依頼主なの?」


 「はい、彼女がこの地域を牛耳るエステリア家のご令嬢、ララファ・エステリアです」


 なんというか思っていた印象よりも幼い。見た目から推測するに14歳ぐらいだろうか? 変態として目覚めるには少々早い年齢だと思う。


 なのだけれど、


 「クズども、私のパンツが欲しいか?」


 「「欲しいですうううううううううううううううう!!!」」


 これである。性格が捻じ曲がるのも頷ける。


 「今回でクエパンも30回目を迎える。だというのに、貴様らがあまりにグズだから未だに私のパンツは見つからないのが現状だ。そこで、今回は趣旨を変えようと思う」


 ララファがそう言うと、周りがざわつき始める。


 すると、空が赤色に染まり始めると巨大な魔方陣が展開される。


 「わあ、すごいいい! きれいいいいい!」


 「すごい魔方陣ですね。これだけ大きい魔術だと一流の魔術師を何人も雇っているはずです。どうやら金持ちの娘というのは嘘ではなさそうですね」


 「それにしても何をするつもりなんだ? まさか焼き払われたりしないよな?」


 なんて疑問に思っているのも束の間、魔方陣から多種多彩のおパンツが降ってきた。


 「えええええええええええええええええ!!!」


 俺は思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。


 「パンツだ! パンツが降ってきたぞ!」


 「すげえ! 大量のおパンツだ! ヒャッハー!!」


 「町中に散らばっていくぞ! 探せ! 全力で探すんだ!」


 各チームが散り散りになる。


 「さあ始まりだ! 誰よりも多く手に入れろ! 這ってでも手に入れろ! そうしたらひとつ1000Gで買ってやろう! この私が!」


 「はあ? 1000Gって俺の一日の稼ぎを上回ってんじゃねえか!」


 「きっと、ララファちゃんはシンヤさんの働きは自分のパンツ以下ってことを言いたいんですよ。ほら、見てくださいあの目つき。まるで家畜を見ているような目をしているじゃないですか」


 ふざけた話だと思うが、このクエストはお金を稼ぐには効率が圧倒的に良い。

 振ってきたおパンツの数はパッと見ても三桁を優に超えている。だとすれば、このクエストだけで数か月分の食費を手に入れることが出来るかもしれない。


 「パンツ以下でも何でもいいじゃないか。寂れた暮らしを続けていくぐらいなら、俺は家族のためにおパンツ奴隷になったってかまわないよ」


 「あ、全然心に響かないです。ごめんなさい」


 「シャンもよくわかあない」


 あれれー? おかしいぞー?


 「とにかく! 俺達は多くのおパンツを手に入れなければならない。そこで俺にいい考えがあるんだ。より多くのおパンツを手に入れるためのフレッシュなアイデアさ」


 「碌な事じゃないでしょうけど、聞きます」


 「まずは広場の茂みに隠れよう。そんでおパンツを持ってきた奴らを闇討ちして奪う。ね? 簡単でしょ?」


 「想像以上に最低の考えでビックリです……」


 「パパこわい……」


 そんな感じでドン引きされたが、二人は仕方なくついて来てくれた。



 しかし、茂みに隠れて30分。俺達のもとにやってきたのは、何故か依頼主であるララファであった。

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