1-11 ギルドってなんぞや?

 見事に貧困家族となった我らである。

 これから先のことなぞ考えないで刹那的に生きる。このノンフュチャー精神こそが人生を最も楽しく生きる方法ではないかと俺は考えているのです。

 だって10年後や20年後の自分なんて想像できないじゃないですか。小学校の頃に20歳の自分に手紙を書いたことがあったけれど、当時の俺は「生きてますか?」なんてふざけた文を綴ったものだ。あの頃は楽観的に書いた文章であるが、今書いたら悲観的に、まじめに「生きてますか?」30代40代の俺に聞くに違いない。


 とにかく、それほど追い詰められた状況なのです。

 魂を抜かれた俺に反してシャンは明るい。買った洋服を着もせずに大事そうに抱きしめている。その嬉しそうな姿が唯一の希望なのかもしれない。


 「どうせ買ったんだから帰ったら着替えてみなよ。白のワンピースに」


 「そうですね。私もシャンの黒のドレス姿が見たいです」


 「またけんかすうの?」


 「もうそんな気力もないよ」


 こちとら明日の生活費さえも危ぶまれている状況なのだ。いまからでも返品を受け付けてもらえないだろうか?


 「シンヤさん、もしかして返品してお金作ろうだなんて考えてません?」


 「あはは、そんな馬鹿なこと考えるわけないじゃない。だけど実際問題どうするのさ? お金がないんじゃ旅どころか生活も出来ないよ」


 「簡単ですよ。仕事をすればいいんです。この世界の用語で言えばクエストです」


 「わあ、またゲーム的な用語だなあ」


 まあ、キラキラな異世界で仕事なんて言う世知辛い二文字はハートに良くないし、ファンタジックな世界が台無しなので仕方ない。


 「簡単に説明して貰ってもいいかな?」


 待ってましたと言わんばかりにない胸を張り、レインは説明を始める。


 「私達冒険者(仮)は主に冒険者ギルドという施設でクエストを斡旋して貰って……」


 「ああ、そこらへんは何となくわかるよ。多くのクエストをこなしてギルドランク上げたりしてる間に、お姫様助けたり、ドラゴン倒したりして急にランクがトップに上がったら、周りが手のひら帰してスゲースゲー言う施設でしょ?」


 「後半の妄想は置いといて、大体そんな感じです」


 異世界もののネット小説読んでいれば、これぐらいの知識は当然である。まったく、この知識が生かす日が来ようとは虫唾が走る人生だなあ。


 「シャンはなにすえばいーの?」


 一人勝手に理解していた俺に反して、シャンは未だに疑問符を頭に浮かべている。


 「とりあえず、山賊に襲われているお姫様探すか、ドラゴンが街を襲うことを祈るんだ」


 「なんでいきなり成り上がろうとしてるんですか。せめて最初のステップぐらい踏んでください。シャン、パパの言うこと真に受けちゃダメだからねー」


 「はーい!」


 そんな感じで、レインはギルドまでの道中にいろいろなことを説明してくれたが、大体が異世界もののテンプレに当たる部分で、そこは聞き流した。


 「冒険者はソロの人もいればチームで活動している人たちもいるわけです」


 「チームって漆黒の深爪みたいなやつらか?」


 「その認識で間違いないです。名前は間違ってますけど」


 あれ? あいつらなんて名前だったけ? まあいいか。


 とぼんやり考えていると、


 「この世界で特殊な部分と言えば、ランク戦があることでしょうか」


 すると、聞きなれない言葉が流れてくる。


 「ランク戦?」


 「はい、ランクの昇格時期が来ると、他所の冒険者と公式戦を行っていって、そ

の戦績で昇格か降級が決まっちゃうんです」


 「わあ、降格もあるのか。それは緊張するね」


 「もちろん昇格戦に参加するには、一定の成績も必要なので、クエストをサボっていたら問答無用で降級されたりと容赦ないんです」


 「なるほど、運よく成り上がっても痛い目に合いそうだ」


 「その通りです。特にA級やB級は化け物ぞろいですから、ギルド戦の経験が少ない分圧倒的に不利になるわけです」


 クラスはA~F級があり、クラスによって受けられるクエストが変わってくるのはよく聞く話だが、昇格戦というは初耳である。

 シャンが眠たそうにしているので、俺は彼女をおんぶしながら耳を傾ける。


 「そんなわけで、私たち3人もギルドに行って登録をしちゃいましょう」


 「3人って、もしかしてシャンも登録するの?」


 「もちろん。ギルドのチーム登録は原則3人以上からですので」


 「でも、あぶなくないの? モンスターの討伐とかしなきゃでしょ?」


 「そこは安心してください。薬草や素材の採取みたいな安全なクエストもありますから。それにシャンは勇者ですからね、どっかの馬車より戦力になります」


 「こら、さり気なく人を馬鹿にするのやめようね」


 「というよりシンヤさん。もしかしてシャンのこと心配してくれてるんですか?」


 「当り前じゃないか。まだ子供なんだから。俺は大人の都合で子供を不幸にしたくないだけだよ」


 「そういう考え方ができるんですね」


 「む、バカにしてるな?」


 「いえいえ、心から褒めてるんですよ。私には出来ない考えですから」


 「なんだそりゃ。……まあいいや。とにかく行こうぜ」


 まったく、てんで読めないやつである。そういう人間は苦手だ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る