人助け

「おうおう、どこに目つけてんだ、てめー」

 3人組のあまり人相も頭も性格も、そして運も良くなさそうな連中がわめいている。うん。あんま関わりたくない感じだ。

「考え事してたので、すみません」


「クズがいっちょ前の口きくじゃねえか。まあいい。こっちは忙しいんだ。失せろ」

 今まで気づかなかったが3人組の向こうには、花かごを持った女の子。目に涙をためてフルフルしている。


「なあ、ねえちゃん。ここで商売するには許可証がいるんだ。出してみな」

「で、でも……」

「ないんだったら。ここじゃ商売はできねーな。まあ、その気があるんなら別の仕事をやってもいい。じゃあ、あっちに行こうか」


 そう言って、悪い奴が女の子の手を掴もうとする。何と分かりやすいシチュエーション。これはチャーンス。助けてあげれば、お礼がもらえるかも。あ、金がないから花売ってんのか。まあ、お礼の代わりに……、なんて展開もあるかもな。


「あー、その子から手を離しなさい」

「まだ居たのか。このサル野郎。脳みそもサル並みなのか、てめーは」

 そう言って殴りかかってくるのをひょいとよける。さっきは考え事をしてたからぶつかっただけで、こんな雑魚のパンチがあたるわけはない。


「怪我する前にここから去りな」

 キリッ。決まった。俺かっこいい!女の子も俺のことを期待して見ている。

「どうやら死にたいみたいだな。このトンチキぶっころせ」

 3人組が腰に下げた剣を抜く。


 俺は飛び退ると、耳からハルバードを取り出して大きくした。

「てめえ、どこからそれを」

 一瞬驚いた顔をするが、3対1なのを思い出して、切りかかってくる。


 ポロ、グサ。1人の首が落ち、1人の胸にハルバードが刺さる。手下2人の血を浴びて顔面蒼白になった男が、くるりと向きを変えて逃げ出す。逃げ足の速い奴だ。まあ、いい。今はそれよりも大事なことがある。振り向いて女の子の方を向くと後ろ向きに倒れて必死に後ずさっていた。


 声をかけようと1歩を踏み出すと、

「やめて、殺さないで。イヤ、イヤァァ!」

 そう言って、失神した。服の下半身が濡れている。えええ。どうして?助けてあげたのに?


 呆然としている俺の背後からドタドタという足音が聞こえてくる。そちらを見ると総勢30人ほどの人間が駆け寄ってくるところだった。

「さっきは世話んなったな」

 先ほど逃げた男が仲間を連れて戻ってきたらしい。


「やれ」

 弩から矢が放たれ、火炎玉が飛んでくる。それをひらりとかわして、連中に接近する。ハルバードを自分を中心に半回転させた。ザシュ、グチャ、ドカ、ベキ。片膝をついて弩を構えていた奴らと黒いローブ姿の奴らが血をまき散らしながら倒れる。


 更に、体ごと1回転。さっき逃げた奴を含め、ごっつい鎧を着こんだ奴らも武器ごと粉砕する。ドガガ。やべ、石壁もちょっと削っちゃったよ。まあ、仕方ないな。不可抗力だ。あたりには俺以外に立っているものはいない。あー、すっきりした。


「動くな」

 いい気持でいると後ろから声がかかる。

「武器を捨てて、降伏しろ」

 立派な鎧を着て、長剣を持った戦士が兵士を引きつれて立っていた。


「俺は悪くないぞ。こいつらに襲われて身を守っただけだ」

「どちらが先に手を出したかは関係ない。事情は詰所で聞く。武器を捨てるんだ」

 一方的に断じる物言いに段々ムカついてきた。

「断る」


「ならば力ずくで取り押さえるまで。聖クラウス神官戦士団を甘く見るなよ」

 そう言って、長剣で切り付けてきた。速い。ハルバードで受け止める。キーン。お。こいつは結構強い。

 距離を取って、リーチを生かした連続攻撃ををしかけるが、長剣で払われ、避けられ、攻撃が当たらない。


 更に攻撃のスピードを上げる。段々相手を追い詰めていき、振るったハルバードの爪が相手の兜の庇を引っかける。ガッ。兜が吹っ飛ぶと、長い黒髪が流れ出た。女だ。そのことに驚いている間に、

「ちっ。こいつは予想以上に手ごわい。いったん引くぞ」

 そう言って、兵士を引き連れ去って行く。


 一体なんだったんだ?今のはなんとなく警察のような気がしてきたぞ。ひょっとして、俺は犯罪者扱いされてんのか?まあ、やりすぎたのは確かだが……。もうこの街には居づらいな。移動すっか。

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