序章 2話 チャンス到来はメールと共に

伊吹陽太、17歳。好きな物、ゲーム。趣味もゲーム。それと、ゲーム実況。

憧れてるのはゲーム実況者集団『MASKめろん』。



彼らに憧れゲーム実況者としてデビューしたのは一年前だが、現実は厳しいと痛感した。

MASKめろんが結成したのが5年前。彼ら単体やより人気のある実況者集団がデビューしたのはもっと前。

当然、俺と同じような思考でもって実況始めましたって輩が多くない訳もなく。



「ハァ……再生回数5000……」

「一日で5000回見てもらったらありがたい方だろーが、ほかのマイナー実況者に謝れ」


学校が終わり、昨日投稿した動画を確認しがっかりしていると、隣で様子を見てた幼なじみが容赦ない言葉を浴びせてきた。

確かにゲーム実況者飽和状態の今、一日で5000回見て貰えるのは割といい方なのかもしれない。しかしだ。俺は今回の動画に力を入れていたわけで、正直この三倍くらいの再生回数はくるんじゃねぇのかと期待をしていた。実況者アカウントのSNSには告知を入れ、ゲーム自体も話題のある新作サバイバルホラーゲームの実況にして、サムネからタイトルから見てもらえるよう最大限工夫したわけだ。それで予想より少ない5000回なのだから、がっかりしちまうのも仕方の無いことだろう。

「正確には5000じゃねえし。4982回……あーあ、同じホラゲ投稿した蟻村さんは8時間で9万回再生突破してるってのによ」

関連動画に上がっている『MASKめろん』の一人、蟻村さんの動画再生回数を見て憂鬱になる。この人の動画に憧れて、彼の所属するチーム実況にハマって実況を始めたが、まだまだその背中に追いつく気配もない。

「ハァー……くっそ。難しいもんだよな、実況って」

「お前、そんなショックだったん?前から思ってたけど焦ってやっても方向性見失うだけだぞ」

「それは……」

分かってるけど、と言おうとした所でスマホの通知がなった。そういえば今日はと大事な要件を思い出し、スマホを見る。幼なじみの方も同じく自分に来たメールを見ているようで、気にせず俺もメールを確認した。


“伊吹陽太(HN:ウタ)様”

“この度は弊社の新作VRMMO『ヴァルタナストーリー』RC版一般ユーザー抽選への御応募誠にありがとうございました。厳正なる抽選の結果……”


「ご当選致しましたことをお知らせ致します……」

そのメールの一文を見、お互い顔を見合わせる。奴にも同じ内容のメールが来たのだろう。心無しかいつも仏頂面の顔がにやけていた。さっきまでのガッカリから反転、ついつい声を上げちまう。

「よっしゃあ!チャンス到来!」

「まあ、VIPユーザーとして人気実況者も参加だけどなー」

「黙らっしゃい!一般ユーザーも動画投稿OKなんだぞ!これをチャンスと呼ばずになんて言えってんだ!」

「さっきの落ち込みようは何だったんだよポジティブっつーか情緒不安定か」

幼なじみの容赦ないツッコミが続くが気にしない。新作プロジェクト会見が行われてから世界中の話題となった全く新しいVR「LINK SPIRITS」。それをひと足早くできるチャンス(実況投稿できる特典付き)を何万人といた応募者の中から手に入れたんだから喜ばないわけが無い。

「LINK SPIRITSとゲームソフトは一週間後に届きますだってよ」

「マジか、マジでホントの話なんだよな……もう俺超幸せ。蟻村さんとゲームないでコラボとかしたらどうしよう」

「言ってろ実況者馬鹿」


まさかこれが厄介事の序章になるなんてことも気づかず、むしろ人気実況者への起死回生の切り札としか思わず、俺はそれから1週間をかなり浮かれて過ごしたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る