オープニング2

依頼はこうだった。

闇オークションに非常に強大な力を秘めた刀が出品されるという噂があった。

ヴィランの手に渡るのは阻止したいが、運営側に圧力を掛ける方針は失敗。

なので二人にはオークションに参加して貰い、可能ならば予算内での落札。それが失敗した場合入札者を押さえて欲しい、という訳だった。


二人はとあるビルの前に来ていた。

一等地の高級ビルだけあり、黒服たちが内側に控えているのが分かる。

本来なら二人が入れば即座に叩き出されるのだろうが……

懐の招待状を確かめる。これがあれば問題ないだろう。


「確認致しました、こちらへ」

招待状を確認した黒服に奥のエレベーターへ案内される。

エレベーターに乗り込むと扉が閉まった後、僅かな浮遊感。

どうやら地下へ降りていくようだ。

エレベーターを降り、絨毯の敷かれた廊下を歩く。

その奥、大扉の先にあったのは──。


オペラ劇場を思わせる様式の巨大なオークション会場だった!


しばらくしてオークションが始まる。

歴史上の誰某が付けていたという、華美なだけの宝飾品。悪魔と契約して得たと言われる外套。限定100本限りで発売されたヒーロー専用ゲーム。数多くの少女が受け継いだ石の薔薇。レネゲイドを活性化する薬剤。古ぼけた異端の魔術書。


そんなモノたちがやり取りされていった後。

「それでは本日最後の出品となります。」

「それではご覧下さい、大太刀《呪》でごさいます。」

そういって司会が取り去った布の下から現れたのは、飾り気のない黒鞘黒柄の大太刀が一本。


見ただけで分かった。

間違いなく、これは危険だと。

放たれる悍ましい空気は、闇オークションに集う剣呑な客たちをも黙らせる。


「それでは100万円から。」

預かった予算は5千万。

次々に客たちが値を上げ始める。


終了1分前。

「100億よ」

凛と響く、少女の声。

それをもって告げられた桁違いの金額は会場を新たな沈黙へ導く。


結局、一分の間に沈黙が破られることは無かった。

「ええっと……終了でございます。100億のお客様の落札でございます!」


ざわつく会場の中、立ち去り始める客たち。

落札者の彼女は主催者側に案内されていく。

商品の確認だろう。


それを追って廊下の角を曲がったその時。

彼女が目の前に立って、こっちを見ていた。


だが、二人の驚きはそれ以上に別の所にあった。

落札者の彼女の隣に付き添う男を知っていた。

莫 燕。彼が護衛だったのだ。


「初めまして、お二方。わたくし、ブラッドヴェインのヒーロースポンサーたるセッパ社の社長を務めさせて頂いています、切羽 めぬき(きりばね めぬき)と申します。」

優雅な所作を持ってめぬきが挨拶をする。

「皆さんの活躍は聞いておりますわ。燕さんはあまり語ろうとはしませんが、祝さんがよく話してくれましたの。」


「さて、行きましょうか。」

めぬきの言葉のまま、商品受け渡しの場へ3人は同行する。


黒服が桐の大箱を目の前に置き、蓋を開ける。

「こちらが大太刀《呪》でごさいます。」

やはり唾を飲むほどの圧力。この世全てを呪わんばかりに禍々しい刀。

それが唐突に。


《姉さん、お久しぶりです》


喋り出した。


《刀違いでしたか? いえ、祝姉さんで間違いないはずです》

《呪のことをお忘れなのですね》

《ならば呪は……語ることはありません》

そう言ったきり、大太刀は沈黙する。


皆さんがそうしていると、爆発音が響く。

それと同時に非常ベルが鳴り響き、場は騒然となる。


皆さんが《呪》の方に意識を向けると、ちょうど《呪》が見えない力で部屋の隅に飛んでいくのが見える!

それをキャッチしたのは………さっきまでいなかった男。

「やっぱ泥棒は火事場に限るわな!」

燕はすぐに男が狗だと認識する。

「そんな怖い顔せんといてーや。もたもたしとると逃げ遅れんで?」

「俺は逃げるわ!ほな!」

狗は空間を歪めてどこかに消え失せる。


会場から脱出すると、めぬきが話し掛けてくる。

「貴方がたに依頼したいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」

「後日、時間を設けますので詳しくはその時にお願いしますわ。」

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