第二部

第8回:素晴らしいパフォーマンスを見せて子供たちの目を輝かせてあげることが、征服人気回復への一番の近道

ーー今年もこの季節がやってきた。夏と言えば海、山……そして征服ファンなら誰もが待ち望んでいるであろう、『夏征ェス』である。開催三四二一回目となった今年の夏征ェスは『原点回帰』をスローガンに掲げた。我らが魔王さまと言った”古参”の征服者だけでなく、今もっとも勢いのある若手征服者である[魔王]と言った異世界の征服者の面々が一堂に会する。折しも今年の開催地は魔王の地元、ファンタジアの文化会館・野外ホール。隠居を決断され、おそらく今年が最後の参加になるであろう”地元開催”の夏征ェスは、盛り上がること間違いなしだ。



□ここで全部出し切るくらいのフルパワーなステージにしたい□



花:恒例のイベントになった『夏征ェス』は、さまざまな世界線の征服者たちをいっぺんに見られるのが魅力なんですよね。普段は干渉することもないパラレルワールドの様子を、会場でじかに触れて確かめることができる。

魔:感覚としては、万博のような感じですね。他の征服者のやり方だったり考え方だったりは、見ててすごく刺激になります。

花:魔王さまも、征ェスにはよく行かれるんですか?

魔:以前は完全プライベートで行ってました。露店とかも多いし、やっぱり楽しいんですよ。異国の、普段食べる機会がないようなフードが並んでたり。ついつい記念グッズやお土産を買いすぎちゃったり(笑)。

花:今では征服者側として参加されるようになりました。隠居されるのであれば、今年はラストイヤー?

魔:そうなりますね。


花:魔王さまは征服した村を丸々再現するなど、圧巻のライブパフォーマンスで毎回盛り上がり必至でした。ラストイヤーで一体どんなステージを見せてくれるのかと、楽しみにしているファンも多いのではないでしょうか?

魔:最後だからって特別気負うことは正直ありません。いつも通りの、ここで全部出し切るくらいのフルパワーなステージにしたいと思ってます。ただ去年の『冬服ェス』では自分の征服技術や、時間の関係もあり反省すること、課題も多かった。だからこそ、今年の夏はもっと熱いものにしたいですね。観客に征服の楽しみが伝わるような……『世界征服って、実はこんなに身近で、簡単に楽しめるものだったんだ!』って、そう思っていただけたらうれしいですね。



ーー『世界制服は身近で楽しい』。そう語る魔王さまの目は、いつになく熱を帯びていた。インタビューの傍、彼が背中に背負っていたのはレスポール。世界征服時に各地で猛威を振るった魔剣である。



□どれが自分に合ってるかと言うのは、人それぞれ違います□



魔:商売道具には変わりないんですが、私にとっては、彼はただの剣じゃない。もはや自分の腕同然ですね。寝るときも一緒です。

花:これから世界征服を始めようと言う子供たちにもオススメ?

魔:初心者には向いてないかも(笑)。レスポールは両手剣なんですけど、長さは二メートルくらいあって重量感がある。だからこそ、剣を振った時のサウンドも、他とは比べものにならないくらい良いモノが出せるんですけどね。自分の身の丈に合った武器を選ぶのが一番です。狙撃手が戦地のど真ん中で剣振り回してたら、ギャグでしょう(笑)。

花:自分の武器適正と言うのは、どうやって知ればいいんでしょうか?


魔:一番良い方法は、とりあえず全部試して見ることです。背の高い人もいれば、足の速い人もいて。どれが自分に合ってるかと言うのは、人それぞれ違います。

花:今までの征服者の方々も、皆三者三様で得意な武器や陣形は違いますもんね。

魔:ええ。でもやっぱり、世界征服には基本の形があって。

花:基本の形?


魔:はい。『ここはこうすれば上手くいきやすい』と言った、いわば戦い方の王道ですよね。もちろん武器種によって基本は違うんですけど、じいっと観察してると、意外と似通ってる部分も多いんですよ。例えば両手剣の指南書だったら『じっくりと腰を落として、背筋は伸ばして戦え』と書いてある。でもこれって実は、鎖鎌の指南書でも言われてることなんです。私はそれがすごく面白いなと思ってて。その武器を極めれば、道は違えどどこかで同じような部分が現れてくる。

花:なんだか果てしない話ですね。


魔:本屋で『世界征服の仕方』みたいな本を読んで見ると、やっぱり『地図の書き方』ばっかり書いてある本が多いです。もちろん地図の書き方は必須なんですけど、私はそれだけが征服じゃないと思うんです。世界征服は全てに置いて総合的にやっていかなければいけない。『剣の振り方』だったり『近隣住民との付き合い方』だったり……。そう言うのは、『地図の書き方』ばかり勉強していても身につきません。意図して違うジャンルのやり方を学んでいくのも、世界征服者になるための悪くない勉強法だと思いますね。



□自分たちが子供の頃どうだったかを尋ねると良いと思います□



花:近年では、子供たちの人気職業アンケートで『世界征服者』になりたいと答える割合が減ってきていると聞いています。

魔:どうしても『悪者』みたいなイメージがありますよね。私も決して『良い者』だとは思いませんが、でもステージ上で見る征服はどれも良いモノですよ。素晴らしいパフォーマンスを見せて子供たちの目を輝かせてあげることが、征服人気回復への一番の近道だと思いますね。

花:『世界を征服するなんて、難しそう』と言う意見も耳にします。


魔:あと、『親に怒られるから嫌だ』とかね(笑)。そう言うお父さんお母さんには、自分たちが子供の頃どうだったかを尋ねると良いと思いますよ。今時テレビで世界征服を見たことがないなんて方がナンセンスだし、きっと今のお子さんたちと大差ないことやらかしてますから(笑)。難しいか難しくないかで言うと、そりゃ難しい。でも、それはいきなり『世界』を見ているからですね。もっと身近なところで、例えば『我が家の風呂場を征服する』って考えたら、楽しそうじゃありません?

花:まずは手の届く範囲からやってみる、と。

魔:はい。そこから徐々に広げていけばいい。『楽しくなさそう』って言う人たちは、一度征ェスに来てください。きっとみなさんの想像を超えてみせますよ。

花:とても気合い入ってますね。楽しみにしています。

魔:ありがとうございます。



□イベント情報□


サマーワールド征ェスティバルInファンタジア(八月十三、十四日)


会場:ファンタジア文化会館・野外ホール

時間:朝九時〜夜九時

出演:魔王、魔王、魔王、[魔王]、魔王……and more!


(文:高宮第三高等学校新聞部・二年三組 花園優佳)

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