第2回:こういう人が、世界を征服するんだなって。

ーー約一ヶ月前に、晴れてファンタジア全土征服を果たした魔王。今回は外へ飛び出し、世界征服の第一歩目となった『アウシュテルリッツ村』の酒場から、よりボリュームアップしてインタビューの続きをお届けする。今や行きつけになったという村外れの酒場で、魔王がいつも注文するカクテルとは? 酒場に来ると毎回注文すると言う、ホタテのバター焼きに込められた想いとは? 途中から豪華ゲストも乱入して……!? こうご期待!



□そう言ってもらえたら、私の征服も少しは報われます□


花:カンパーイ!

魔:乾杯……っていやちょっと待ってください。花園さん、貴女は未成年では?

花:良いじゃないですか細かいことは。貴方、魔王なんでしょ?

魔:良くないですよ、記事になるんですから……。

花:はいはい、分かってますよ。ご安心ください、これはレッド・ドラゴン=コーラなので。

魔:今日はやけにテンション高いな……。


花:……と言うことで私たちは今、魔王が制圧した『アウシュテルリッツ村』の外れにある酒場に来ています!

魔:…………。

花:この村は、王都『デルリィン』からおよそ三〇〇キロほど離れています。周りに都市部もなく、言ってはなんですが寂れた印象を受けますよね。

魔:そうですね。だからこそ世界征服に向けて、早めに手を打ちたかったと言うのもありますね。


花:『トビイワシの燻製 〜メロンソーダに乗せて〜』。魔王さまが今飲んでおられるカクテルは、このアウシュテルリッツ村の知られざる名産品ですよね。

魔:ええ。トビイワシはアウシュテルリッツの名物ですが、残念ながらこの魚は工業排水の多い都市部では生き永らえることができません。自然の多い場所でしか育たないのです。

花:しかしイワシの燻製をメロンソーダに突っ込むセンスは、いかがかと思いますが。

魔:……真面目に聞いていますか?

花:割と真面目な話、この記事に真面目な内容は求められてないと思います。

魔:そうですか……。


ーー前王の圧政はファンタジアに住む全ての人間と魔族に知れ渡るところではあるが、ここではあまりにお堅い話になるので割愛する。少し寂しげな顔で、トビイワシの目玉をソーダで溶かそうとしている魔王(写真4)。アウシュテルリッツ村の外れにある居酒屋『アウシュッ亭』は、陽の沈んだ夕刻から徐々に賑わいを見せ始め、開店から一時間で満員の客で溢れかえった。皆畑仕事や炭鉱から帰って来た人間やドワーフと言った魔族の面々である。彼らは馴染みの居酒屋の中に魔王の姿を発見すると、皆一様に驚き握手やサインを求めて来た(写真5)。


花:大人気ですね、魔王さま。

魔:ははは。ありがとうございます。

花:皆さん言ってますよ。魔王さまのおかげで、この村でも争いが無くなったって。

魔:そんな……そう言ってもらえたら、私の征服も少しは報われます。

花:村中の人たちが集まってるのかってくらい、とても活気あるお店ですね。失礼ですが、今お食べになってるのは?

魔:これですか? ホタルホタテのバター焼きです。美味しいんですよ。身がどっかりしたプリップリのホタホタの上に、バターが乗っかって……網の上で焼くとトロトロと溶けるんです。

花:へええ!

魔:初めてこの村を征服した時にね、ちょうど前政府のお偉いさんたちが来てて、ホタホタの年貢について村人と揉めてたんですよ。それで……(話が長いので省略)……以来この村に寄ったら、毎回店主に出してもらってます。

花:へええ。何か、意外です。魔王って、もっとキングコブラの丸焼きとか、キメラの生き血とかを丸呑みしてるのかと思ってました。

魔:……どんなイメージなんですか(苦笑)。



ーーホタホタのバター焼きは、一皿に四枚のホタホタがついて四八〇ルビィ(写真6)。『アウシュッ亭』の看板メニューでもある。意外と庶民派だった魔王の居酒屋事情。ここからさらに、先の戦争で魔王と剣を交えた、この村出身の勇者である村上・ケイシュタイン・崇さん(34)にも席に加わっていただいた。



□何なら今すぐにでも魔王さまの仲間に加えてもらえないかと思ってるくらいですから□


花:さてここからは、特別ゲストをお呼びしています。アウシュテルリッツ村の勇者・村上さんです! どうぞ。

村:どうも、勇者の村上です。どうぞよろしくお願いします。

魔:お久しぶりです(笑)

村:どうも(笑)。魔王さま、お久しぶりです(笑)。


花:ここで村上さんについて少し詳しくお話ししましょう。村上・ケイシュタイン・崇さん。お父さんは勇者で、お母さんは白魔道士。幼い頃から勇者の家庭に育ち、二十歳の時に王都の『全国高校生勇者王決定戦』で準優勝。その名をファンタジアに轟かせます。

村:昔の話です……何だか、恥ずかしいな(笑)。

花:最近では『〇〇でスライム狩ってみた』などの動画を作成し、勇チューバーとしても活躍されておられます。お二人は今回の征服で、別々の陣営として戦った訳ですが……。

魔&村:はい。


花:お互いの印象はどうでしたか? まず村上さんから。

村:そうですね。魔王さまは三百年前からの伝説で……よく母親から夜寝る前に聞かせてもらってた、絵本に名前が出て来るくらいですからね。それこそ偉人のような存在だったので……初めてお目にかかった時は、そりゃあ緊張しました。

魔:(笑)。

村:ただ実際に戦場で太刀筋を拝見させていただくと、とても堅実な印象を持ちましたね。

花:堅実な印象。

村:はい。剣技の芯の部分がしっかりしてて、なおかつ古臭さも感じない。現代魔術についても同様で、相当研究しておられるな、と。

魔:魔族特有の、独学ですよ。特定の流派に弟子入りして学んだ訳じゃない。

村:だからこそ、でしょうね。僕も受けきるのが精一杯でした。


ーー堅実で、勉強熱心な魔王。村上さんは私たちに、黒い布で包まれていた顔の右半分を見せてくれた。皮膚が真っ黒に焼け爛れ……筆舌に尽くし難い戦争の傷痕が、私の目の前に露わになった。決して綺麗事だけでは語れない『世界征服』と言う戦禍の爪痕が、今も村上さんの体を、そして心を蝕んでいる。


村:だからと言って、僕は魔王さまを恨んではいませんよ。当然前王に与するものとして、防衛軍に加わったのは事実ですが。

魔:…………。

村:『世界征服』のおかげで、圧政に苦しめられていたこの村にも活気が戻った。何なら今すぐにでも、魔王さまの仲間に加えてもらえないかと思ってるくらいですから。

魔:それは、ダメですよ……(笑)。君は人間なんだから、わざわざ私の側に来て肩身を狭くする必要はない。

村:僕も勇者としてそこそこ名を馳せていますけどね、戦場で僕に一太刀入れたのは、この数年で魔王さまくらいのものです。それくらい、彼の『征服』はすごかった。僕も、子供の頃『世界征服』を夢見たことがあるんですけど……。

花:そうなんですか!?


村:子供の頃ですよ(笑)。男の子なら、いや女の子だって、誰だって一度はあるんじゃないかな。でも夢見ても、実際に自分に具体的に何ができるか、とか考えると……。魔王さまなんてね、怒ったり血を見たりすると、全身が火の粉に包まれるんですよ。

花:へええ!

村:もうね、すごいんです(笑)。レジェンドです。こういう人が、世界を征服するんだなって。

魔:飲み過ぎじゃないですか?

花:では次に魔王さまにお聞きしましょう。魔王さまから見た、村上さんの印象は?


魔:そうですね。村上君は、幼い頃から知ってるんですけど……。

村:ありがとうございます。

魔:非常に優秀な人材でね、彼は謙遜するだろうが、剣技だけなら私より上ですよ。特に剣を左手に持ち替えた時の、右下死角からの突き上げが……(非常にマニアックなので省略)……だから私も戦場では、とにかく必死でしたね。

村:ありがとうございます! 嬉しいです!

花:お互いを尊敬し合える、とても良好なご関係ですね。

村:そうですね。ちょっと、場所を変えましょうか。来てください、この村で見せたいものがあるんです。

一同:(席を立つ)



ーー勇者の身でありながら、魔王に与したいとまで言い切った村上さん。二人の関係は、『世界征服』を経てなお強いものへと変わって行ったようだ。場所を変えようと言われ、慌ててホタホタのバター焼きの残りを頬張る魔王(写真7)。それから私たちは酒場を後にし、村上さんに連れられて村のさらに奥地へと足を進めて行った。《続く》



(文:高宮第三高等学校新聞部・二年三組 花園優佳)

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