アンチークショップコレクシオ

「おっはよー」

「おはよー」


 声をかけがなら、待ち合わせ場所で手を振っている玲奈達に耕輔は駆け寄る。春華も祐司ももう来ている。待ち合わせの十一時までまだ三分ある。時間前に着けたとにこやかに三人に笑いかけた。


「おー、耕輔が時間に遅れずにきたよ。これは事件だよ」

「それな、いかに時間ぴったりに着くかチャレンジしてるんだ。

 でもいつも中々予定通りにいかなくてな。

 今日はばっちりだよ」


 初めて四人で(いや春華と)待ち合わせしたのがよっぽど嬉しいのか、ちょっと興奮しているのか、耕輔は口も軽くくだらない理由を挙げる。今日は時間前に着いたからいいようなものの、いつも待たされてる祐司が吐き捨てるように言う。

「だったら、時間前に着くようにすればいいだろう」

「それじゃあ。つまらないだろ、何事もチャレンジだよ」

「俺は、もうお前と待ち合わせしないからな」

 などと、嬉しそうににこにこしている玲奈と困惑の表情の浮かべている春華を置き去りにしてふざけあってる。


 日頃は互いに制服しか見たことはなかったので、初めての私服姿を互いにしげしげと見つめ合っている。耕輔は、お気に入りの薄いグレーのパーカーに濃い紺の布ジャケットでジーンズに黒のスニーカー。祐司は白いシャツに黒のテーラードジャケットを羽織り、黒いチノパンにくるぶしを覆う黒の安全靴を履いている。こんな時にも安全靴なのが祐司らしい。


 春華は、白い襟なしの柔らかそうな混紡素材のシャツに、明るい緑の薄手のジャケット。まだ肌寒いこともあり、濃い緑のペーズリー柄の薄手のショールを肩にかけている。下は、膝上10cmくらいの大きめの千鳥格子のミニスカート。薄い黒のハイソックスにピンクのパンプスをいている。


 春華を嬉しそうに見上げている玲奈は、白いもふもふのジャケットに膝上20cmのピンクのミニスカート、光沢のある黒っぽいレギンスを履いてピンクの縁取りのスニーカーをいている。玲奈は158cm、すぐそばで172cmある春華の顔を見ようとすると見上げることになるのだ。


 美少女二人は目を引く、通り過ぎる人々はチラチラと、またはあからさまに視線を投げかけながら通り過ぎていく。いい加減にこれ以上目を引くのはどうか、と祐司が視線で春華に移動をうながす。四人は春華の案内で店を目指して歩き始めた。


 その店は、広い通りから一歩入った通りに面しており、オーク素材の重厚な店構えだった。外からは店内はうかがえない。どこにも店名は見当たらなかった。


 大きな分厚いドアを押して中に入ると店員の明るい声で来店の挨拶が聞こえてきた。明るくかなり広い店内に歴史のありそうなアンティーク家具がゆったりと、そして所狭しと並んでいる。ほのかな香木の香りがより高級感をかもし出している。耕輔はこんな高級な店には入ったことはなかったのですっかり恐縮してしまった。


 そんな雰囲気に呑まれることなく玲奈はインポートアンティークの小物をみて騒いでいる。

「へえー、いい感じのお店ね。

 あ、これいい。お母さんにねだってみようかな」


 春華は困惑を微笑みに変え、顔見知りの店員に目礼を返して話しかけた。

「吉永さんはおられますか?」

「ええ、ちょっとお待ちになって。

 マスター。

 藤鞍さんのお嬢さんがお見えになってますよ」と、奥にいるマスターに声を掛ける。


 マスターは破顔一笑、小走りに駆け寄ってきた。

「コレクシオにいらっしゃい。

 春華ちゃん待ってたわ。

 あらあら、すっかり美少女になったわね」

 と、お世辞をひとつ。

「これは、夏織ちゃんより美人になるわ。

 それはそうと、夏織ちゃんすごいわね。

 人気上々じゃない」

 姉の名前を出してお愛想ひとつ、続けて春華に話題を戻す。

「しばらく見なかったけど。

 んー。あれ以来。

 あらごめんなさい。気が利かなかったね」

「いいえ、気にしていませんので」

 マスターはしまったとばかり、表情を曇らせたが、すぐに笑顔に戻り要件に入った。マスターも事情は知っている。春華の前のトリガーを引き取ったのは彼だったのだから。


「ちょっと待っててね」

 トリガーのことは事前に電話で伝えてある。自分の小部屋に戻り鍵を持って戻ってきて奥のドアを開けて皆を中に招き入れた。


「さあ、どうぞ。ゆっくり見ていって。

 いいのがあったら声をかけてね。それからアイテムには勝手に手を触れないでね。手順があるから」

 マスターは、春華に頷くと部屋の出口に立ち止まった。彼女の両親を知っていて特に気を使っているのだ。


 耕輔は、棚やボックスに綺麗にディスプレイされたアイテムを眺めながら、知ったばかりのことを確かめるように、話題をふった。

「藤鞍さんお姉さんいたんだ」

 春華をまじまじと見ないように微妙に視線をずらし、かたわらに立つ春華に話しかけた。

「そうだよ。

 春華のお姉さん。夏織さんはマスコミでも有名な美人占い師なんだよ。

 本当によく当たるからね」

 玲奈が割り込むように返事をする。

 そして、春華の鋭い視線から逃げ出すように、キャハキャハと笑い顔で急いで離れていく。離れたところで気に入ったものを見つけたのかじっくり見始めたようだ。裕司は二人の後ろに背を向けて立っており武具の飾りアイテムらしきものを一所懸命見ている。


「もう、玲奈ちゃんったら。

 お姉さまのことは話題にしないでって頼んでいるのに。

 活躍は嬉しいんだけど、話題にするとなんだか身内びいきになりそうで・・・」

 春華は、先日の姉の占いを思い出して動揺していた。

 言い訳するかのように聞かれていないことを答えている。いつもはあまり表さない動揺の空気が春華から漂ってきたのを察して、耕輔は話題を変えるため目の前の魔法アイテムをじっくりと眺め独り言ちた。


「魔法アイテム。

 よくわからないな。

 値札付いていないし」

 困り顔で振り返り笑いかける。

「藤鞍さんはわかるの?」

「それは、じっと見つめて目を凝らさずに凝らすと言うか、分かりにくいわね。

 言わば心の目で見るわけ」


 春華は、真面目な顔をして目の前のボックスの中のアイテムを見据みすえる。真面目な春華の横顔を耕輔は、そのつもりはなかったが見つめ、いや見惚みほれてしまっていた。春華は、耕輔の目線に気がついていない。

「すると、わかるの。

 このアイテムはほのかな藍色あいいろの光に包まれているわ。代々使用していた魔法使いがこのアイテムで行使した魔法とか、歴史とかがなんとなくわかるの。

 具体的に読めるほど私は力がないけどね」


 春華が微笑み耕輔の方を振り返る。春華の視線と耕輔の視線が重なる。

 春華の横顔に見惚れていた耕輔はあわてた。テンパってしまっていた。


「こっこれは?」

 素早く視線を上にずらし、その辺にあったアイテムを素手でつかんで春華に押し付ける。


「あ、矢野くん。

 それ・は・だめ。だめ!」

 春華が悲鳴をあげる。

 耕輔が掴んだ時には何事も起きなかったアイテムが、春華に触れると爆発するような光に辺りが包まれた。魔法感受性のあるものにはそう見えた。


「ああ、僕はまたやらかしたのか・・・」

 薄れゆく意識のなかで耕輔は叫んだ。

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