世界のエピローグ

雪子の二十五歳を知るのは、世界で俺だけだ。

彼女の手の温もりも、くちびるの柔らかさも。

彼女の作るハンバーグが、世界一美味しいことも。


巨大隕石「ノストラダムス」によって人生を強制的に終えさせられる時代に生まれたことを、不運と嘆く人もいる。

俺も、色々「ノストラダムス」には思うところがあるさ。

でも、案外悪くないんだよ。


世界の終わりくらい、週末の終末くらい、自分の気持ちに従おうって思えるんだ。

ほんとうに、大切なものに気がつけるんだ。


世界が終わらず、このままなら、俺はクラスメイトの事実無根な噂を信じて、どこか適当に雪子の件も流しただろう。


妹は、ののかとゆずこちゃんはどうしたろうか。

彼女らの写真は、宇宙人に無事届いただろうか。

いや、そもそも写真が無事なのかが疑問だがな。


両親は、どうしたろうか。

あの人達のことだ。隕石が落ちる寸前まで気がつかずに、ケンカでもしてるのだろう。

鈍感も度を越せば幸せなものだな。


あの親子はどうしたろうか。

キャンピングカーをわざわざ乗ってまでやって来たんだ。

懐かしい再会で、積もる話もあるんだろうな。


そして、雪子。

いつも、自分の名前を呼んでくれないと怒るくせに、俺のことを名前でお前も呼んでないよな。

でもさ、雪子がちゃんと俺の名前を最後呼んでくれて嬉しかった。


やっぱり、終末が週末にくるのは、悪くない。

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しゅうまつ、きみと。 ダチョウ @--siki--

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