しゅうまつ、きみと。

ダチョウ

第1話

なかなかキツいシャレだな。

カップ麺の、のびきった麺をすすりながら思う。

終末が、週末に訪れる。

クソみたいなダジャレに思わず吹き出す日本人はさぞかし多かろう。


半年ほど前に観測された巨大隕石は「ノストラダムス」と名付けられた。

「ノストラダムス」は地球の二倍くらいの大きさで、岩石でできているらしい。

らしい、というのは俺は天文学はまったく存じ上げないので、ニュースで専門の学者にお説を垂れられても理解できない。

まぁ、そんなニュースという存在もどこか明後日の方向へ消えた。

そりゃそうだ。

「ノストラダムス」は地球に降ってくる巨大隕石で、衝突した瞬間、地球は破裂だの、爆発だの、なんかよくわからんが、想像できないほどのすごいことが起きるらしい。

つまりは世界が滅亡。

地球はこの巨大隕石「ノストラダムス」によって宇宙のもずくとなって消えるのである。

いや、宇宙にもずくなんてねぇけど。


政府高官は火星に移住すれば助かるんじゃないか、とか言ったけど無理。

水金地火木土天海で習った通り、火星は地球の近所だ。

衝突したあと、地球が破裂かなにかしたときの衝撃波ソニックブームで火星も星屑ではなくとも、表面部分はえぐりとられ、宇宙空間の彼方に放り出される。

一体どうしてこんなどでかい隕石が太陽系の惑星の隙間をヌルヌル通って地球までやってきたのか、とか世界的に研究したが、原因不明。

大いなる大宇宙に人間風情は太刀打ちできなかった。

今では研究は打ち切られ、己の純粋な好奇心に従った研究者が調べてるくらいだ。

「ノストラダムス」はここ日本の裏側、ブラジルに衝突。

その衝撃波が日本に伝わるのは衝突してから二秒後らしい。

やったね、二秒長生き!なんて思えない。

ブラジルから日本にたった二秒のためにやってきた人がいたが、何したいんだそいつら。

二秒で何が出来るんだよ、と思う。

せいぜいテレビのチャンネル変えられるくらいだろ、二秒なんて。

というか、テレビも機能してないけど。


いや、テレビだけでないな。

俺は自分のしょぼい部屋を見回す。

週末の終末まであと三日。

テレビやラジオ、雑誌に新聞といった報道関係は終末の二週間くらい前からストップした。

報道の精神は世界の終わりにあっけなく膝を着いた。

たしかに、ここにきて誰かの不倫とかどうでもいいよな。

鉄道とか移動手段も二週間くらい前に止まった。みんなだいたい、二週間くらい前までは働いてた。

ひょっとしたら、助かるんじゃないかなんて絵空事を信じて。

が、やっぱり空を毎日見るようになって気がつく。

日に日に、そいつは、「ノストラダムス」は近づいてきたことに。

不気味なほど黄色かったそれは、少しづつ赤みを帯びて、今では血のような色になっている。

「赤い彗星」ならぬ「赤い隕石」である。

旅行会社は最初、「終末に過ごす癒しのリゾート」なんて話もあったが、誰も働かない。

それに上層部も気がついた。

金を儲けても、もう使えない。

犯罪者も現れない。

死を突きつけられて、もう何もアクションを起こす気力がない。


結局、人類は各々、誰かとどこかで自分達だけの力でしゅうまつを過ごす。

どこか原始的かつ無気力なこの世界の空気が、俺は嫌いではなかった。

案外悪くねぇな終末、なんて思ってもいる。


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