第3話 サキの話2

「やっぱり特殊仕様はないみたいね」

「私相手にノーマルで来るとかムリがあるよね?」


ほとんど口に出して言っていたが、次の瞬間、肩口にシャツを

掴んできた相手の腕がバキっと大きな音を立てた。

外見には何も変わったように見えないが、駆動系がイカレた

のを察知したのか、制服はいったん距離をとる。


「これ以上の行為に対しては相応の報復措置をとります」


「よく言うよ」

引き込んだのちに裏をとり、拘束帯を取り出して生きているほう

の腕もきめた。コネクタを見つけてデバイスを挿す。


「前に来たやつはコネクタも殺してたんだけど」

「私と戦ったあとに再利用できるとか思ってたんだ」


今回襲ってきた軍事用アンドロイドはふだんから練習している

うちのひとつだった。武器の所持や隠し武器などがないのは

あらかじめ走査してわかっていたが、自分の知らない技を

使用するかどうかに数分見極めが必要だった。


と言っても、かわす自信もあり、つまり念のための見極めだ。

武術の指導者からも慎重さが足りないとか言われないために。


今回は機体の仕様を充分熟知しており、弱点もわかっていた。

特に肩口からつかんで投げを狙って来た際に、腕にダメージを

与えられる角度と強さは何度も練習していた。


じゃあ強度をなぜ高めないのかとなるが、そうすると繊細な

技が出せなくなる。だいたい武術の世界大会レベルの人間でも、

そんな弱点をつける者は数人しかいなかった。



可視区域内に民間人がいることも気づいていたが、すでに

照会できていたので特に気にしなかった。新聞社勤めまで

わかっていたが、とくに記事にすることもないだろう。


数分してハッキングに成功したので、この機体からは嘘の報告が

あがっているはずだ。「ターゲットおよび目撃者の処理に成功。

ただし、本機については移動不可能なダメージを負ったため、

偽装記録を上書きしたうえで機能停止する」


こういった場合、もちろん襲わせた側、依頼主が機体を回収

したいものだが、サキが呼んだ警備会社が先に回収してこれまた

ありがちな報告を一般公開のサイトに上げた。


しかし、一点気になる部分があった。通常このような出来事が

あった場合、機体の出どころはテロ組織であったり、そのたぐいの

小国から送り込まれた形跡が記録からわかるものである。


今回は大国の名前があった。これを理由に、この後サキは

公式の場から完全に消えさる。事故死ということで小さな記事にも

なった。


「やり方が雑だよね」


と思いつつも、ある大国がある意図をもって動き出している

ことは明確だった。公式な身分のまま正面から戦うと、

ちょっと厳しい、というのは軍事コンサルとしての知識からも、

生き物としての直感からも感じられることだった。

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