第2話 サトーの話

道に迷ったのはもちろんマニュアル運転に切り替えていたから

である。しかし、サトーユタカは、ほかにももっともな

言い訳がないか探していた。


といっても、今日は出張終わりの空いた時間である。

言い訳する相手もいない。いったん車を停めて、少し歩いて

見晴らしのいい場所で一服しようとしていた。


この時代でもアナログカーは少なくない。しかし、最新型よりも

値段が高いうえに劣る点もたくさんあり、妻にもいつも

文句を言われていた。


しかしサトーはそこだけは譲れないと思っていた。たしかに

ガソリン車ではない。この時代に完全受注タイプのガソリン車は

とてもサトーの給料では買えなかった。


太陽光発電も備えた電気タイプのエンジンであるが、

ガソリン車風に振動し音を出す。そこが見る人によっては

かえってダサいと感じるし、実際エネルギー効率も悪い。



いつかフリーのジャーナリストになってやる、そう思いながら

今の新聞社で10年が経とうとしていた。経緯があって

今は妻と一人の子どもと駐在し、今日は愛車で出張だった。



違和感を感じたのは、遠目に一人乗りのホバーを停めてから

足で走る人影が大型店舗などで見るような制服を着ていたからだ。


そして、これも忽然と現れた日よけ帽をかぶった十代と見られる

女性と挨拶したかと思いきや、制服のほうが殴り掛かった。


ように見えた。というのは、少女のほうが、つまずいたのか

どうなのか、とにかく避けたのだ。が、制服はそのまま

すごい勢いで殴る蹴る。少女はそのうち派手に吹っ飛んだり

転がったりしているが、なぜか意識を保っているように見える。


ナンだこれは、と一瞬呆気にとられている間に、テキストが

飛んできた。「ロボットが暴走しています、避難してください」

しかし、サトーは内容を読む前にこれまでの経験から、

直感から、非常にマズい事態であることを把握した。


単なる暴走でなかったら?


民間のアンドロイドがあのような動きができるわけもないし、

もし軍事用であればその意味するところは明白だった。


この子がやられたら間違いなく、次に証拠隠滅で消されるのは自分、

地方の新聞社とはいえ、ジャーナリストの勘がそう言っていた。

ヒザが躍るのをかっこ悪いと思う暇さえなかったし、

妻や子の顔が思い浮かぶ暇もなかった。


愛車をどう発進させたかほとんど憶えていなかったが、

自動運転に切り替えていったん落ち着いた。何か理由を

見つけて家族で一時帰国し、そしてまた理由を見つけて

こっちに戻らない、などとぼんやり考えていた。


ふつうの人生とは何だろうか、などと思ってみた。

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