未来

「おぎゃー!おぎゃー!」


 俺の、俺達の子が産まれた。

 元気な女の子だ。


 名前は、未来。


 豊丘未来とよおかみらいだ。




 ______________




 あれから1ヶ月して、彼女は目覚めた。


 医者は、奇跡だといい、彼女の両親は泣きじゃくり、俺はただ、笑夢を抱き締めた。


 奇跡じゃなくて、笑夢の頑張りと、未来さん心臓の頑張りだと思った。

 ありがとう。


 後遺症が残るかもと言われていたが幸い、笑夢にはなんの後遺症も残らなかった。

 両親や俺のことも、しっかり覚えていた。


 笑夢が目覚めるまで、俺は毎日病室に通い続けたし、目覚めてからも学校に行けるようになるまで彼女の病室に通った。


 彼女はもちろん病室に居たので、俺達は仲良く留年した。

 2年生をもう1回、笑夢とやり直した。

 今度は俺にも、沢山友達が出来た。


 ______________


 未来さんのお母さん、希さんの願いは見事に叶えられた。


 俺達は、未来が産まれて3週間後、未来を連れて、磯山さん夫妻に会いに行ったみたいだ。

 結婚式以来だ。

 この時の俺達は、まだ知らないけど。


『未来』と名付けたことも、報告した。


 ご両親は、泣いて喜んで、笑夢と未来、それから俺までを抱き締めてくれた。


 これからも、時間があるときでいいから会いに来てと言われた。

 未来が大人になるまでずっと、会いに行こうと笑夢と話した。


 ______________



 未来が産まれるより前、もちろん結婚式もした。


 純白のドレスに身を包んだ笑夢は、物語の中のヒロインと疑ってしまうくらいに、綺麗だった。


 いや、俺の中のヒロインだから、疑うも何も、そうなのかもしれない。


 誓いのキスは、少し恥ずかしかったが、病室の中で笑夢のご両親の前ですでにしていたから、まだマシだった。


 披露宴では、俺達の過去を、全て語った。


 笑夢の友達も、俺の親友も、新しくできた、笑夢と俺の友達も、みんな泣いていた。


 もちろん、笑夢の両親と、未来さんのご両親も、俺の親も。


 その後は、みんなが披露宴を盛り上げてくれた。

 泣いて笑って、最高に楽しい時間だった。


 ______________


 ちなみに、籍は笑夢の家に入れることにした。


 法も改正されて、夫婦別姓でも良くなったが、俺より何倍も、何十倍も辛い経験をして、それを乗り越えてきた彼女の名字を、継ぎたいと思った。


 だから、俺達の子供は『豊丘未来』だ。


 ここには、俺達、笑夢の両親、俺の親、それから、未来さんのご両親。

 いろんな人の思いが詰まっている。


 未来にはこれから、楽しいことも、辛いことも、嬉しいことも、悲しいことも、時には死んでしまいたくなることだってあるかも知れない。


 でも、俺は、俺達はみんなで協力して、全力で支えていきたいと思う。


「笑夢、生きててくれてありがとう」


不意に未来を抱き締めて微笑んでいる彼女にそう言う。


すると彼女は恥ずかしそうに笑いながらも、「今は違うでしょ」と言った。

俺は理解し、彼女と口を揃えて言う。



「未来、産まれてきてくれてありがとう」

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落花流水 文菜 @seko

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