第4話 おおぐまちゃん、昔を思い出す

岸壁の近くにずっといたが誰も探しに来ることもなく、さっき訪れた管理事務所は電気も消され誰もいなくなっていた。

「困ったねぇ。」

日はすっかり沈んでしまい、倉庫の灯りの下で途方に暮れていた。

「おおぐまちゃん、こっちきて。」

手を引いて倉庫の裏にやってきた。奥の方にドアがあり、入っていくと非常灯の下に何枚かのダンボールが敷いてあった。

「ここにいたのかい?」

ときくと小さくうなずいた。二頭でダンボールの上に座り込むとポツリポツリとこぐまちゃんは話し始めた。3日ほど前ずいぶん離れた町で貨物列車に紛れ込んだという。身よりはなく施設で暮らしていたのだが、誰かと一緒に港で海を見ていたという記憶だけがあり、はるばるここまでやって来たらしい。ただ誰となのかは全く覚えていない。


おおぐまちゃんは両親を失ったときのことを思い出した。朝食を一緒に食べ、町に行く二頭を送り出した。おおぐまちゃんはいつもどおり家でテレビを観ていた。しばらくすると家が揺れ、村が大騒ぎになった。駅につながる谷の斜面が崩れたらしい。二頭がそこに差し掛かるくらいだ。背筋がゾクゾクして気がつけば家を飛び出し走り出していた。大量の土砂が目の前を塞いでいる。うなだれてたたずんでいる隣の家のおじさんがいた。崩れる少し前二頭とすれ違ったという。村には土砂を取り除くための重機などあるはずもなく、捜索作業はすべて手で行うしかない。

「どうか無事でいてくれ!」

おおぐまちゃんも作業に参加した。二日後の夜、二頭が見つかった。真っ暗な場所にランプで薄暗く照らされた遺体が置かれていた。今、こぐまちゃんと座っているこの場所のように。

「とりあえず今夜はボクのお家においでよ。どうするかは明日考えよう。」

気づくとこぐまちゃんはおおぐまちゃんにもたれかかって眠ってしまっていた。


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