長い時間が経てば忘れてしまいそうな日常を切り取った短編集でも、どれも不思議で平穏で魅力的ですオススメは「花手毬」適当に花を並べるのではなく、花一つ一つを丁寧に描写しているところが好きです
日常の中に怪異が普通に存在している世界。そこで起こる不思議なことを淡々とした美しい文章で描き出した作品です。幻想的な雰囲気と日常の描写が両立しているところが独特に感じました。世界観にあっという間に引き込まれました。
お城のあるこの街では、過去と現在、異界と現世の境界が、混じり合って存在している。そのため、狭間から現れたモノノケ達が、ちょっとした悪戯をすることがある。柳の下に現れる緑の女、何故かものを倍にして吐き出す石、煌めく幻影の魚たち、花園を独りはねていく手毬……。何が好いと言って、こうした怪異を、街の人々が特に騒ぎ立てることもなく、当たり前のこととして受け入れている風情です。個人的に、松江城周辺を思い浮べながら拝読しました。もののけ譚がお好きな方に、お薦めです。