石の魚
風情ある城とそれを囲む濠で知られるこの町は、知る人ぞ知る石の名産地でもある。
庭先へ置いたり石垣を組むようなものではない、工芸用の特殊な石が出るのだ。
お城から一キロほども行ったあたりにある低い山に、古くから知られた石切場がある。そこから青く翳りを帯びた独特の風合いの石が産み出される。
その石を紙のように薄くなるまで磨き続けると、ゆったりと遊ぶ魚たちの姿が浮かびあがってくるのだ。化石のように朽ちたものではなく、うつくしいうつくしい青い影である。
なんでも、気が遠くなるほどの古い時代、まだこの辺りが海の底だったころに泳いでいた魚が、そのまま石に閉じ込められたものなのだという。
魚の種類はいくつかあるようだが、ヒラヒラと長い背びれや、美しい大きな尾びれを持つものが、やはり人気だ。
これらは腕の良い職人に磨かれ、碗や湯呑、水を受ける大型の器となって売り出されて、珍しい土産物として国内外へ出ていくのである。
伝え聞く評判によれば、光の加減によっては、水を入れた器から魚たちが泳ぎ出てくることがあるのだという。ちょうど、色とりどりのセロファン紙を形良く切り抜いて影絵にして遊んだときのような楽しみ方ができるのだそうだ。
面白いことに、この影絵の魚は、捕まえることもできるらしい。
知人の話だが、ひょいとした思い付きで、石の器近くにドリームキャッチャーを置いたことがあり、それへ魚が引っかかったのだという。
酔狂なことに、彼は、捕まえた魚を焼いて食べてみたのだそうだ。
鱗は無かったそうなのだが、まずどうやって胆を取り除いたものかからしてわからず、焼き加減にも苦労したと言っていた。
それでもとにかくなんとか焼きあげて、醤油をかけてかじってみたのだそうである。
結果、どうだったか。
……不味かったのある。
牡蠣の殻を焼いてすり潰したような味と食感だった、と口を曲げていたから、なるほど、お世辞にも美味いとは言えないだろう。
見て楽しむに留めておくのが良い、と土産物に買っていく者たちへも、おすすめしておく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。