第18話 嘘だろ?

橘権太たちばなごんたかつらから蔵子くらこさんが警察に連れて行かれたことを聞いた。

「嘘だろ? 何で……?」

僕は固まって動けずにいた。


「なんでもトラックの運転手が『小豆沢蔵子に頼まれた』って言ったらしいっすよ。」


「……」

僕はショックなあまり何も言えなかった。

なんで……蔵子さんがするはずないじゃないか!

とにかく蔵子さんに土日に会いに行ってみよう。


警察に行っても面会は家族か弁護士でないとダメらしい。


僕は警察の前のベンチで座り込んでいた。


「蔵子さん……どうなるんだろう? 」

僕は権蔵に話しかけていた。


「まあ、あやつなら大丈夫じゃろう」


「今、蔵子って言ったか?」

黒いシルクハットに黒いくたびれたスーツを着たパンチパーマの40代ぐらいの男性が話しかけてきた。


「はい。そうですけど……」

この人は誰だろう……?


「来な。小豆沢蔵子あずさわくらこに会わせてやる」

40代の男性は僕についてくるように促した。


「失礼ですがあなたは誰ですか? 蔵子さんとどう関係あるんですか? 」


「ああ、自己紹介がまだだったな。こういうものだ」

40代の男性は名刺を取り出し僕に渡す。

僕も名刺を40代の男性に渡した。


名刺

薬研探偵・弁護士事務所

所長 薬研空真やげんくうま


「弁護士さんなんですか?」

よく見ると、胸に弁護士バッチがついている。


「ああ、探偵もやってる。何でも屋だ。橘権太くん。俺の助手のふりをしろ」

なんで僕の名前を知ってるんだ? なんか上から目線で偉そうだな。いきなりタメ口で命令口調だし……まあ蔵子さんに会うためだ。我慢しよう!


「はい。蔵子さんとはどうゆう関係ですか? 」


「俺が若い時に蔵子のおやじさんに世話になったんだ。蔵子は子供の時から知ってる」


~警察にて~

「薬研先生、橘さん!どうしてここに? 」

蔵子さんはだいぶやつれていた。


「蔵子さん大丈夫ですか? 」


「大丈夫……でも確実な証拠があるみたいで……でも私には身に覚えがないです」

全然大丈夫そうに見えない。


「蔵子ちゃん。確実な証拠とは?」

薬研先生は腕を組んで言った。


「私とトラックの運転手のやり取りが入ったICレコーダーです。聞かされたんですけど声が私なんです……」

蔵子さんは相当参っているようだ。ICレコーダーとはかなりの証拠だ。でも蔵子さんがやるわけない。きっと何か解決策があるはずだ。


「まだ諦めないで下さい。僕がなんとかします! 」

僕は必死に蔵子さんに訴えかけた。


「なぜ私のためにそこまでしてくれるんですか? 」

蔵子さんが僕を見つめる。


「それは蔵子さんがす、す、す」

僕が『好きだから』と言いかけた時に薬研先生が一言言った。

「俺も真犯人を探し出す」


「ありがとうございます!薬研先生。橘さん」

薬研先生にいい所を持っていかれたな。

そして、面会時間は終了した。


警察から出ると、背の高いイケメンとすれ違った。

「蔵子さんのお兄さん?」

僕は思わず2度見をして言った。


「すみません。えーとどなたでしたっけ? 」

蔵子さんのお兄さんは僕のことを覚えてないようだ。


「蔵子さんの元同僚の橘です」


「ああ、思い出した! 橘くん。蔵子に会いに来たんですか? 」


「はい……」


「家族と弁護士以外は入れないはずでしたが」

蔵子さんのお兄さんがいぶかしげな顔をした。


「俺の助手だ」

薬研先生が一言だけ言った。


「薬研先生お久しぶりです。そうだったんですね。それでは……急いでるので。」

蔵子さんのお兄さんは薬研先生に握手をした。


「橘くん。僕を呼ぶ時は智之ともゆきでいいから」

そう言って、ニコリと智之さんは微笑んだ。


「じゃあ俺もここで……じゃあな」

薬研先生も帰って行った。


~帰り道~

「なんとかすると言ったものの……どうしよう? 」

僕は権蔵に相談した。


「はこべに助言してもろたらどうじゃ?」


「何ではこべさんに? 」

「はこべは頭の回転が早い。わしもよう助言してもろたわ」

今までの柊愛長の賢君ぶりはまさか……はこべさんのおかげ?


小豆沢光さんは今日は霊媒師さんの所に力と一緒にいるはずだ。僕達は霊媒師さんの所に向かい、光さんと霊媒師さんに事情を説明した。


すぐに霊媒が始まり、はこべさんが出てきた。

愛長つぐながさま。またいらしたんですか? 」


「今日は助言を頼みたくてな」

権蔵がそう言うと僕ははこべさんに事情を説明した。


「なるほど。分かりました。おそらくこの問題はすぐに解決します。今まで通り調査をお続けになって下さい」

すぐに解決する? こんなに不利な条件で?


「私からの助言は小清水健一小清水健一こしみずけんいち様に早くお会いになった方がいいでしょう」


「健一に?」


「はい。1番役に立つ人物でしょう」

今猿いまさるさんや如月きさらぎさんや薬研先生よりも?


「分かりました!すぐに連絡を取ってみます!」

僕は慌ててスマホの連絡帳を見る。


「愛長様……おそらく私がこうしてお話できるのは最後になるでしょう」


「3回までのはずじゃ。まだ1回ある」


「おそらく3回目はこの子の体力が持たないでしょう。こうしてまた柊愛長様にお会いできて、本当は嬉しかったです」

はこべさんは寂しそうに言う。


「待て! はこべ! わしがまた会う方法を探し出すから待っててくれ!」


「そこまで言うなら必ず会いに来てもいいですよ……忘れたら許さないですから」

そこで霊媒が終わり、はこべさんは意識を失った。

「はこべ~」

権蔵はしばらく泣いていた。

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