「そういえば、まだ言わないつもりでいるの?」

「……何のことだよ」

「学校一の美少女に思いの丈を告げられない男子なんて大勢いるでしょうに、早く告白したほうがいいんじゃないの? 」

「俺は一度決めたことは完遂する主義だ」

「その言葉、一年前から聞いてるのだけど」

「ほっとけよ……」

 そう言う榊は耳まで赤く染まっている。

「深澤すみれ。吹奏楽部所属の高校二年生。数々のコンクールで好成績を修めつつ学業も手を抜かない努力家。愛らしい容姿と誰にでも分け隔てなく接する性格から男女ともに好かれる、まさに完璧な学校生活を送る才女」

「だああ追い打ちをかけるな殺す気か!」

 くるくると表情を変える榊を、天宮は楽しげに眺め、尚続けた。

「こんな高嶺の花に恋をするくらいには君も健全な男子高校生よね」

「うるさいうるさい! 俺は、お前に勝つまでは言わないと決めてるんだ! 」

「その様子じゃ告白なんて夢のまた夢ね。私に勝つまでだなんて」

「随分な自信だなぁ天宮……」

「一言好意を伝えるほどの精神も持たない人間に私が負ける訳がないでしょう。要は自分に自信が持てないからそれを得るための目標設定をしてるだけ。そんなにプライドが大事なの? 」

「そのプライドを崩してくれたのは他でもないお前なんですけど!? 」

「言い訳は見苦しいぞ榊」

 天宮の発言は悔しいほどに的を得ていた。今まで敗北というものを経験したことが無いからこそ、「ニ位」というレッテルは榊を前に進めなくしてしまっていた。それは彼自身も自覚している。だが、そんな自分を素直に受け入れることが出来る程、榊は大人になりきれないでいるのもまた事実である。

「なあ天宮。俺どうすれば好かれると思う? 」

「黙ってたらいいんじゃないかしら。発言が君の程度を下げる」

「おま、なんてこと言うんだよ! 」

「大体、その手の相談ならいつも一緒にいるクラスメイトにしたらどうなのよ。向こうの方が君を不快にさせない回答をくれるんじゃないかしら」

「あのなぁ、俺は普段何でも出来る優等生として振る舞ってんの。こんな相談事したら俺の評価にキズがつくだろ」

「その意地っ張りな性格も治すべきね。」

 時間は、いつもこんな風に流れていく。榊が疑問を呈し、天宮がそれに答える。ただそれだけの空間。少年少女は延々と語らうが、別段内容に深い意味はない。十数年を生き、今様々な境界の狭間に居る彼らには、胸中を語るという行為そのものが必要だった。それは対話の様であり、自問自答の様でもある。自らがそれらを吐き出す場所があることがこの上ない幸福であると、彼らは自覚していないのだろうが。

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